[PA-3-18] テルミン奏者の再起に向けた作業療法
【はじめに】テルミンとは垂直,水平方向に伸びたアンテナに手を近づけたり遠ざけたりすることで音階,音量をそれぞれ制御する電子楽器であり,その演奏には奏者の高い技術と熟練を要するとされている.今回,外来リハビリテーションにて脳出血を呈したテルミン奏者を担当する機会を得た. 麻痺を呈した身体でのテルミン奏者としての再起に向けた作業療法の取り組みについて報告する.尚,事例提示にあたってはヘルシンキ宣言に基づき,対象者には治療経過について個人が特定されない形で発表すること,個人情報保護対策について十分に説明し同意を得た.
【事例紹介】50歳代の男性.妻と2人暮らし.職業はテルミン奏者であり,妻と協同で国内外での公演活動やテルミンの普及,啓発に取り組んでいた.5年前に脳出血を発症し重度麻痺を呈したが回復期リハ病棟入院を経て,現在は軽度右片麻痺が残存しているものの独歩でADLは自立していた.テルミン奏者としては第一線から退き,後進の育成や裏方としての仕事に尽力していたが,身体性が高い演奏技術が求められるテルミン演奏においては,事例の替わりになれる人材はいないことを悟った.今回,左右の手の役割を入れ替えた演奏法での再起を目指すこととなった.4か月後に計画している復活公演開催に向けて,麻痺を有する身体での演奏技術の向上を支援するために1回/週の頻度で作業療法開始となった.身体機能面では軽度右片麻痺を呈し簡易上肢機能検査(STEF)右:78,左:97,箸操作や書字等の利き手としての役割は獲得していた.テルミン演奏においては左手で音階のコントロールすることが可能であったが,麻痺側上肢である右手での音量コントロールでは俊敏な運動が困難であり意図した演奏が困難であった.作業療法での目標を「4か月後に左右の手の役割を入れ替えた演奏での復活コンサートを開催する」とし,重要度10,実行度4,満足度3であった.
【作業療法介入】外来での関わりであり,事例が感じる問題点に対する自主トレーニングを中心とした解決策の提示を繰り返すことで演奏技術の向上を図ることを目的とした.
介入当初には「演奏していると右手の位置が内側にずれてしまう」ことが問題であり,音階を制御する左手への過剰な注意や両側肩甲帯や肩関節周囲筋群の過剰な姿勢筋緊張亢進が問題と考えられた.左手での音階の正確性を高める練習と肩甲帯のセルフストレッチを指導したことで,左手への過剰な注意は軽減し右手へ注意を向けられるようになり,身体の自己管理が可能になるにつれて右手の位置の保持が可能となった.次に「音量の調整がとろい感じがする」と語り,右上肢の筋緊張亢進により,演奏時には肩の運動が中心となり末梢関節の分節性,なめらかさに欠く状態であることが問題と考えられた.単関節の運動から開始し,制御する関節数を漸増させ,徐々に複雑な運動に取り組むよう指導した結果,「演奏技術に向上を感じる」との発言が聞かれた.4か月後には復活公演の開催に至り,実行度8,満足度6であった.公演を終えた事例は「無事コンサートを終えられて良かった.今回は復帰と銘打ってのコンサートであり,脳出血発症前と比べたらまだまだ人に聴かせられる状態ではないと思います.今後はまた一人のプロの演奏家として認知してもらえるように励んでいきたい.ゆくゆくは右手で弾いていたときと同じクオリティーで演奏できるようになることが私の課題です.」と語った.
【考察】特異性の高いテルミン演奏についても事例との対話を基に介入することで短期間のうちに変化をもたらすことが出来たと考える.
【事例紹介】50歳代の男性.妻と2人暮らし.職業はテルミン奏者であり,妻と協同で国内外での公演活動やテルミンの普及,啓発に取り組んでいた.5年前に脳出血を発症し重度麻痺を呈したが回復期リハ病棟入院を経て,現在は軽度右片麻痺が残存しているものの独歩でADLは自立していた.テルミン奏者としては第一線から退き,後進の育成や裏方としての仕事に尽力していたが,身体性が高い演奏技術が求められるテルミン演奏においては,事例の替わりになれる人材はいないことを悟った.今回,左右の手の役割を入れ替えた演奏法での再起を目指すこととなった.4か月後に計画している復活公演開催に向けて,麻痺を有する身体での演奏技術の向上を支援するために1回/週の頻度で作業療法開始となった.身体機能面では軽度右片麻痺を呈し簡易上肢機能検査(STEF)右:78,左:97,箸操作や書字等の利き手としての役割は獲得していた.テルミン演奏においては左手で音階のコントロールすることが可能であったが,麻痺側上肢である右手での音量コントロールでは俊敏な運動が困難であり意図した演奏が困難であった.作業療法での目標を「4か月後に左右の手の役割を入れ替えた演奏での復活コンサートを開催する」とし,重要度10,実行度4,満足度3であった.
【作業療法介入】外来での関わりであり,事例が感じる問題点に対する自主トレーニングを中心とした解決策の提示を繰り返すことで演奏技術の向上を図ることを目的とした.
介入当初には「演奏していると右手の位置が内側にずれてしまう」ことが問題であり,音階を制御する左手への過剰な注意や両側肩甲帯や肩関節周囲筋群の過剰な姿勢筋緊張亢進が問題と考えられた.左手での音階の正確性を高める練習と肩甲帯のセルフストレッチを指導したことで,左手への過剰な注意は軽減し右手へ注意を向けられるようになり,身体の自己管理が可能になるにつれて右手の位置の保持が可能となった.次に「音量の調整がとろい感じがする」と語り,右上肢の筋緊張亢進により,演奏時には肩の運動が中心となり末梢関節の分節性,なめらかさに欠く状態であることが問題と考えられた.単関節の運動から開始し,制御する関節数を漸増させ,徐々に複雑な運動に取り組むよう指導した結果,「演奏技術に向上を感じる」との発言が聞かれた.4か月後には復活公演の開催に至り,実行度8,満足度6であった.公演を終えた事例は「無事コンサートを終えられて良かった.今回は復帰と銘打ってのコンサートであり,脳出血発症前と比べたらまだまだ人に聴かせられる状態ではないと思います.今後はまた一人のプロの演奏家として認知してもらえるように励んでいきたい.ゆくゆくは右手で弾いていたときと同じクオリティーで演奏できるようになることが私の課題です.」と語った.
【考察】特異性の高いテルミン演奏についても事例との対話を基に介入することで短期間のうちに変化をもたらすことが出来たと考える.