[PA-3-2] 重度片麻痺を呈した症例に対する非利き手による眉メイクの獲得と習慣化への支援
【はじめに】石橋らは,女性にとって化粧は「身だしなみ」や「おしゃれ」など社会参加にあたり重要な作業になると報告している. その為,化粧は作業療法でも重要になる生活行為である.しかし猪俣らは,脳卒中などの身体機能に問題がある人は巧緻動作などの技能が必要な化粧に困難さを感じ,化粧から遠ざかる可能性があること,化粧の専門家ではないOTが支援に難渋する領域でもあると報告している.従って,化粧支援の知識を有した上で実践を行う事は,脳卒中患者などの身体機能障害のある方の社会参加に繋がる重要な課題である.今回,化粧評価時に眉メイクのやりづらさが観察された女性患者に対して話し合いの上,眉メイクに対して介入をする方針とした.その結果,院内での習慣化が図れた為報告する.今回の報告に関して家族と本人に書面での同意を得ている.
【事例紹介】60歳代の女性,右利き.左被殻出血.病前は化粧習慣あり.院内ではスキンケアの習慣化が図れており,美容に対しての意識が高い.
【初期評価】Br.s左上肢Ⅱ-左手指Ⅱ,SIAS39/76点で,重度麻痺と運動性失語あり.長文理解は比較的良好.単語レベルの表出は可能だが,保続が残存していた.MMSE-Jは19点.ADOCでは化粧を含めた整容の項目が挙がり,AMPSの視点で化粧の評価を行った.特に眉メイクの過程にて鏡を覗き込み何度も眉を描き直す様子が見られ,首を傾げて眉の形の出来栄えに納得のいっていない表情をしていた.今回は非利き手のみで行う事によるFlowsとManipulatesにより眉毛の形が崩れてしまう様子やCalibratesが上手く出来ず,濃くつき過ぎてしまう様子が観察された.その為,簡単な化粧技術ポイントを獲得して自ら化粧を行うことを支援する,Supporting Social Participation through a Cosmetic program (以下,SSPC)の視点を一部利用し,眉メイクに対して支援を行う方針とした.
【介入と経過】化粧品は眉の形が崩れてしまう事や濃くつき過ぎてしまう事に対して,ペンシルタイプからより自然に仕上がるパウダータイプに変更した.眉を描く手順やポイントについてはSSPCの化粧技術を用いて支援を行い,毎朝のスキンケア後に自ら実施して頂いた.パウダータイプはパレット型で,開閉には問題は無かった.筆は付属されていた斜めカットタイプの筆を使用した.担当セラピストの介入時に眉の形や濃さ,進捗状況などについての話し合いを行った.その結果,眉メイクの操作過程でのやりにくさはあるが,眉の形や濃さの調整が可能となった.また,セラピストが出来栄えを伺うと,笑顔で頷き満足している様子が見られた.
【最終評価】麻痺側上肢の大きな機能変化は認められなかったが,非利き手でであっても,パウダータイプを使用する事で眉毛の形が大きく崩れず,濃くなり過ぎずに眉メイクが可能となった.更に,自ら実践を行った事や眉メイクについてフィードバックを行うことで,FlowsとManipulates,Calibratesの動作遂行の向上を認めた.その結果,院内での毎朝の眉メイクの習慣化が可能となった.
【考察】代償モデルとSSPCを用いた化粧支援は,症例の身体状況に関わらず,化粧動作の習得や習慣化に貢献する可能性が示唆された.吉川らは,代償モデルは,身体障害の有無に関係なく作業の再獲得に有効であることを報告している.更に石橋らは,SSPCは自ら化粧を行い習慣化を促進することを報告している.脳卒中片麻痺患者に代償モデルやSSPCを用いた支援は片手動作であっても,症例の満足する化粧動作の獲得や習慣化に至ったと推察する.
【事例紹介】60歳代の女性,右利き.左被殻出血.病前は化粧習慣あり.院内ではスキンケアの習慣化が図れており,美容に対しての意識が高い.
【初期評価】Br.s左上肢Ⅱ-左手指Ⅱ,SIAS39/76点で,重度麻痺と運動性失語あり.長文理解は比較的良好.単語レベルの表出は可能だが,保続が残存していた.MMSE-Jは19点.ADOCでは化粧を含めた整容の項目が挙がり,AMPSの視点で化粧の評価を行った.特に眉メイクの過程にて鏡を覗き込み何度も眉を描き直す様子が見られ,首を傾げて眉の形の出来栄えに納得のいっていない表情をしていた.今回は非利き手のみで行う事によるFlowsとManipulatesにより眉毛の形が崩れてしまう様子やCalibratesが上手く出来ず,濃くつき過ぎてしまう様子が観察された.その為,簡単な化粧技術ポイントを獲得して自ら化粧を行うことを支援する,Supporting Social Participation through a Cosmetic program (以下,SSPC)の視点を一部利用し,眉メイクに対して支援を行う方針とした.
【介入と経過】化粧品は眉の形が崩れてしまう事や濃くつき過ぎてしまう事に対して,ペンシルタイプからより自然に仕上がるパウダータイプに変更した.眉を描く手順やポイントについてはSSPCの化粧技術を用いて支援を行い,毎朝のスキンケア後に自ら実施して頂いた.パウダータイプはパレット型で,開閉には問題は無かった.筆は付属されていた斜めカットタイプの筆を使用した.担当セラピストの介入時に眉の形や濃さ,進捗状況などについての話し合いを行った.その結果,眉メイクの操作過程でのやりにくさはあるが,眉の形や濃さの調整が可能となった.また,セラピストが出来栄えを伺うと,笑顔で頷き満足している様子が見られた.
【最終評価】麻痺側上肢の大きな機能変化は認められなかったが,非利き手でであっても,パウダータイプを使用する事で眉毛の形が大きく崩れず,濃くなり過ぎずに眉メイクが可能となった.更に,自ら実践を行った事や眉メイクについてフィードバックを行うことで,FlowsとManipulates,Calibratesの動作遂行の向上を認めた.その結果,院内での毎朝の眉メイクの習慣化が可能となった.
【考察】代償モデルとSSPCを用いた化粧支援は,症例の身体状況に関わらず,化粧動作の習得や習慣化に貢献する可能性が示唆された.吉川らは,代償モデルは,身体障害の有無に関係なく作業の再獲得に有効であることを報告している.更に石橋らは,SSPCは自ら化粧を行い習慣化を促進することを報告している.脳卒中片麻痺患者に代償モデルやSSPCを用いた支援は片手動作であっても,症例の満足する化粧動作の獲得や習慣化に至ったと推察する.