第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-3-7] 左半側空間無視などを呈した脳卒中後左片麻痺事例に対する両手把持が必要な歩行器歩行獲得に向けた課題指向型練習の取り組み

田中 卓 (医療法人養和会 養和病院回復期リハビリテーション病棟)

【はじめに】脳卒中後の半側空間無視(以下,USN)や身体・病態失認は,リハビリテーション機能予後やADL自立の阻害要因となっており,移動自立に至るケースは少ない.今回,脳卒中後左片麻痺と左USN,身体無視などを呈した事例に対して,早期から振動刺激を併用した課題指向型練習などを行った結果,両手把持が必要な固定型歩行器歩行が自立に至ったため以下に報告する.尚,本報告の趣旨について本人,家族に説明して同意を得た.(養和会研究倫理委員会承認番号:研2022−19−3045)【事例紹介】80歳代の右利き男性.心原性脳塞栓症で,保存的に治療.既往は,高血圧症,ペースメーカー埋め込み術後.第54病日に当院回復期病棟に入院した.自宅退院を希望したが,自宅内は車椅子移動が困難な環境だった.覚醒レベルはJCSⅠ-2〜Ⅱ−10.入院時は傾眠,注意散漫な様子が見られた.MMSE 17点.CBSは10点,BIT通常検査は115点.生活場面で左USN,左身体・病態失認などの症状を認めた.麻痺手動作時には動きにくさの自覚あるが,普段は「異常はない」,「不自由なく歩ける」と話す.BRS上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅳ.把握反射亢進.感覚は軽度鈍麻.FMAは26/66点.MAL-AOUは2/5点,MAL -QOMは3/5点.非麻痺手のみ使用することが常態化しており,両手動作時の消去現象あり.FIMは49/126点(運動34点,認知15点).突発的に行動してベッドサイドで転倒を繰り返していた.【方法】介入初期(入院1日〜60日)は覚醒やUSNの改善,肩の適合性をつくることを目標に,振動刺激を併用した課題指向型練習による介入を開始した.振動刺激は,麻痺側上下肢に課題前に5分程度実施した.介入中期(61日〜120日)は,麻痺手を使用した移乗やトイレ時の手すりの支持を目標に,立位姿勢を増やすなど 課題の難易度を漸増した.介入後期(121日〜158日)は,両手を使用した歩行器操作と病態失認の改善を目的に,左身体へ注意を向ける要素を含んだ課題練習や,両手課題練習,実際の歩行器操作練習を行った.練習時に予測と結果のフィードバックを反復した.【結果】退院時は,覚醒レベルはJCSⅠ-1.MMSE 18点.CBSは1点,BITは133点.「左手が使いにくいが両手操作はできる」「歩行器がないと歩くのは危ない」,と病態の認識が変化した.BRS上肢Ⅳ,手指Ⅳ,下肢Ⅳ.FMAは31/66点,握ったものを離すことが可能になった.MAL-AOUは3/5点,MAL-QOMは2.6/5点.FIMは97/126点(運動76点,認知21点).転倒がなくなり,病棟内の固定型歩行器歩行が自立した.入院後158日で自宅へ退院した.【考察】本事例は,上肢機能がFMAで5点,麻痺手の使用頻度がMAL-AOUで1点向上した.Seltonら(2001)はFMAの臨床上意味のある最小変化量を10点,Van der Leeら(1999)はMAL-AOUのそれを0.5点と報告している.上肢機能の変化は限定的であったが,日常生活の麻痺手使用においては意味のある改善であったと考えられる.USNの変化について,CBSが10点から1点に改善した.Schambraら(2012)は,麻痺手に対する課題指向型練習について,損傷半球から非損傷半球への半球間抑制によりUSNの改善を認めたと報告している.また,Pitzalisら(2013)は,USNを呈した患者の麻痺側に対する振動刺激が麻痺側に運動覚性錯覚を生じさせることによりUSNの改善を示したと報告している.今回の介入も同様な現象が生じて改善に寄与した可能性が考えられる.病態失認の程度にも変化が見られた.Crosson(1989)は,障害の気付きには,体験を通して気付きを促す心理的アプローチが有効だったと報告している.今回の介入も,課題練習やADL場面を通して同様の変化に繋がった可能性が考えられる.