[PA-4-1] クライアント・家族と課題難易度を再調整したことで活動意欲が拡大した症例
【はじめに】
作業療法はクライアントの主観を大切にすることで,価値の変化を引き起こし,生活様式の再編と生活の再構築ができるといわれている.また,自信が低下した時には,環境の整備や課題の難易度を手がかりにして作業を提供する必要があるといわれている(山田孝ら.2016).今回,外来リハビリテーションと自宅での自主トレーニングの課題難易度を調整しながら関わったことにより書字トレーニングが定着し,自信がついたことで活動意欲が拡大した症例について報告する.今回発表にあたりクライアント・家族から同意は得ており,当センターの倫理委員会の承認を得ている(成城2022-9).
【症例紹介】
70歳代女性.左被殻出血による右片麻痺,嚥下障害,高次脳機能障害,運動性失語を認めた.病前は手先が器用で手芸など細かい作業が好きであった.夫と長女家族と同居しており,家事や買い物など協力的であった.性格は初めてのことや慣れていないことへの不安が強い.
【経過】
X年Y月,外来作業療法開始.身体機能面は,右上肢Br.stage上肢Ⅳ手指Ⅳ,握力5.5㎏,ピンチ力指腹2.0㎏,側腹3.0㎏,STEF16点であった.右手の使用頻度の増加を目標に介入.9ヶ月後,右手で普通箸での食事が可能となった.次に「右手で字が書けるようになりたい」という目標を共有した.介入時は,手指の分離運動の不十分さ,手関節の柔軟性の低下,動作時の大胸筋・上腕二頭筋の筋緊張の亢進を認めた.外来作業療法では,上肢機能訓練・書字訓練を中心に介入した.しかし,週1回40分の外来作業療法では書字動作の改善は乏しく,自主トレーニングを導入したが「病気をした今の自分にはできない」と自信喪失感により継続が難しかった.そのためクライアント・家族と面接を行い,課題難易度を下げて簡単に取り組める塗り絵から再開した.さらに,前向きになるように家族から称賛の声掛けと一緒に自主トレーニングに参加してもらうなど協力を依頼した.
【結果】
外来作業療法開始から15ヶ月後,身体機能面は,右上肢Br.stage上肢Ⅴ手指Ⅴ,握力13.8㎏,ピンチ力指腹4.0㎏,側腹6.0㎏,STEF45点と変化し,手指・手関節の機能改善,握力・ピンチ力の向上を認めた.書字は,筆圧の安定や一定のリズムで可能となった.書字練習は塗り絵から始めて,単純な線・図形につなぎ最終的に文字へと難易度を調整した.練習内容や量を相談したことで精神的な負担が軽減し,書字練習が定着した.自主トレーニングが定着したことで,外来作業療法の時間に加えて,自宅での練習量を確保することができた.「字を書けるようになりたい」という目標から,「名前を書きたい」「血圧をノートに記載したい」「手紙を書けるようになりたい」などクライアントにとって意味のある目標へと変化し,取り組むことが可能となった.現在は,簡単な日記を記載することができ,外来作業療法は目標達成となり終了となった.
【考察】
外来作業療法介入当初,書字練習はクライアントの自信喪失感から精神的な負担が大きく,クライアントと相談し課題難易度を下げて,簡単で失敗経験となりにくい塗り絵から実施した.外来作業療法の訓練場面から自主トレーニングで家族の協力を得ることにより,書字に対する成功体験が増え,「できる」ことへの達成感に繋がったと考えられる.そこから,自主トレーニングを継続して取り組むことができるようになった.また自信がついたことで,自ら「何かをやりたい」と前向きな意見がきかれ活動意欲が高まりクライアントにとって意味のある目標へと変化したと考える.
作業療法はクライアントの主観を大切にすることで,価値の変化を引き起こし,生活様式の再編と生活の再構築ができるといわれている.また,自信が低下した時には,環境の整備や課題の難易度を手がかりにして作業を提供する必要があるといわれている(山田孝ら.2016).今回,外来リハビリテーションと自宅での自主トレーニングの課題難易度を調整しながら関わったことにより書字トレーニングが定着し,自信がついたことで活動意欲が拡大した症例について報告する.今回発表にあたりクライアント・家族から同意は得ており,当センターの倫理委員会の承認を得ている(成城2022-9).
【症例紹介】
70歳代女性.左被殻出血による右片麻痺,嚥下障害,高次脳機能障害,運動性失語を認めた.病前は手先が器用で手芸など細かい作業が好きであった.夫と長女家族と同居しており,家事や買い物など協力的であった.性格は初めてのことや慣れていないことへの不安が強い.
【経過】
X年Y月,外来作業療法開始.身体機能面は,右上肢Br.stage上肢Ⅳ手指Ⅳ,握力5.5㎏,ピンチ力指腹2.0㎏,側腹3.0㎏,STEF16点であった.右手の使用頻度の増加を目標に介入.9ヶ月後,右手で普通箸での食事が可能となった.次に「右手で字が書けるようになりたい」という目標を共有した.介入時は,手指の分離運動の不十分さ,手関節の柔軟性の低下,動作時の大胸筋・上腕二頭筋の筋緊張の亢進を認めた.外来作業療法では,上肢機能訓練・書字訓練を中心に介入した.しかし,週1回40分の外来作業療法では書字動作の改善は乏しく,自主トレーニングを導入したが「病気をした今の自分にはできない」と自信喪失感により継続が難しかった.そのためクライアント・家族と面接を行い,課題難易度を下げて簡単に取り組める塗り絵から再開した.さらに,前向きになるように家族から称賛の声掛けと一緒に自主トレーニングに参加してもらうなど協力を依頼した.
【結果】
外来作業療法開始から15ヶ月後,身体機能面は,右上肢Br.stage上肢Ⅴ手指Ⅴ,握力13.8㎏,ピンチ力指腹4.0㎏,側腹6.0㎏,STEF45点と変化し,手指・手関節の機能改善,握力・ピンチ力の向上を認めた.書字は,筆圧の安定や一定のリズムで可能となった.書字練習は塗り絵から始めて,単純な線・図形につなぎ最終的に文字へと難易度を調整した.練習内容や量を相談したことで精神的な負担が軽減し,書字練習が定着した.自主トレーニングが定着したことで,外来作業療法の時間に加えて,自宅での練習量を確保することができた.「字を書けるようになりたい」という目標から,「名前を書きたい」「血圧をノートに記載したい」「手紙を書けるようになりたい」などクライアントにとって意味のある目標へと変化し,取り組むことが可能となった.現在は,簡単な日記を記載することができ,外来作業療法は目標達成となり終了となった.
【考察】
外来作業療法介入当初,書字練習はクライアントの自信喪失感から精神的な負担が大きく,クライアントと相談し課題難易度を下げて,簡単で失敗経験となりにくい塗り絵から実施した.外来作業療法の訓練場面から自主トレーニングで家族の協力を得ることにより,書字に対する成功体験が増え,「できる」ことへの達成感に繋がったと考えられる.そこから,自主トレーニングを継続して取り組むことができるようになった.また自信がついたことで,自ら「何かをやりたい」と前向きな意見がきかれ活動意欲が高まりクライアントにとって意味のある目標へと変化したと考える.