第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-13] 脳卒中患者の下衣更衣に影響を与える因子の解明

大野 颯志1, 東 泰弘2, 兼田 敏克2, 染井 佑太1 (1.医療法人 篤友会 関西リハビリテーション病院療法部, 2.森ノ宮医療大学)

更衣は脳卒中患者の尊厳,自尊心,達成感に影響を与えている重要な日常生活活動である(Walker, et al, 2001).そのため,多くの作業療法士は入院中に脳卒中患者の更衣訓練を行っている(Walker, et al, 1991)が,入院後数週間経っても更衣が自立できない患者は多い(Walker, et al, 1990).その理由として原因を解明しないままエビデンスに基づかない介入をしているケースが多いと指摘されている(Walker, et al, 1991).更衣の中でも特に下衣更衣はトイレ動作などの他の動作にも関連しており重要である.
 先行研究では,更衣を妨げる原因として,運動麻痺,感覚障害,構成障害,身体イメージ障害,視覚性注意障害,半側空間無視,運動維持困難が挙げられている(Suzuki, et al,2006).特に上衣更衣では認知能力,下衣更衣は運動能力が関連している(Walker, et al, 1991)と報告されている.しかし,自立を最も妨げている因子は明らかされていない.そこで本研究の目的は,脳卒中患者の下衣の更衣動作を最も妨げている因子を解明することである.
【方法】
 対象者は脳血管障害と診断され急性期・回復期リハビリテーション病院(3施設)に入院中の患者58名(男性:28名女性:30名,平均年齢:76.2±9.9歳,右半球:31名,左半球:24名,両側:3名)であった.Functional Independence Measure(FIM)を使用して下衣の更衣動作の自立度,上肢,手指,下肢のBrunnstrome stage(Brs),Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J),Frontal Assessment Battery at bedside(FAB),Trail Making Test(TMT),視空間認知検査(線分の長さの弁別,視空間の認知と操作),筋力検査(握力(最大,最小),体幹屈伸筋力,膝関節伸展筋力(最大,最小)),脳卒中機能障害評価法(SIAS)の感覚評価(上肢触覚,下肢触覚,上肢位置覚,下肢位置覚)を実施した.なお,対象者の臨床像が乖離しないように全ての評価を10日以内に実施した.分析は,下衣更衣のFIM得点を目的変数にし,その他の検査結果得点を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した.エクセル統計2019を用いた.また,本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を受け対象者より同意を得た上で実施した(承認番号2020-004).
【結果】
 重回帰分析の結果,抽出された項目は,TMT-J(Part B)所要時間,体幹屈曲筋力,上肢Brsであった.自由度調整済R二乗は0.30であった.
【考察】
 下衣更衣では姿勢保持を行いながら下衣操作を同時に行う二重課題が必要(熊崎,2009)であるため注意の分配機能が必要であると考えられる.また,更衣動作は立位,座位共に体幹保持が必要であるため体幹筋力が重要だと考える.麻痺側上肢の機能は体幹の伸展を抑制しバランスに悪影響を与えている(押山,2017)と指摘されている.そのため,上肢Brsも下衣更衣に関連する因子として抽出されたと考える.これら3つの因子に注目することで下衣の更衣動作の予後予測がしやすくなると考える.