第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-3] 視床出血後の軽度運動障害,重度感覚障害を呈した症例に対し修正CI療法を実践した1例

児嶋 洋昭, 古賀 優之 (川西市立総合医療センター/リハビリテーション科)

【はじめに】体性感覚情報は作業遂行に重要であり,重度感覚障害は運動機能が改善しても麻痺手の使用頻度を制限し,不使用につながる.しかし,急性期における感覚障害,運動麻痺,作業遂行能力,不使用の回復プロセスは,十分に明らかにされていない.今回,左視床出血により右上下肢軽度運動麻痺,重度感覚障害を呈した50歳代男性に対し,発症2日目よりCI療法を基盤とした介入を実施した.運動麻痺,作業遂行能力,不使用の改善状況について,感覚障害残存の観点から考察したので,その経過とともに報告する. 尚,本発表について,口頭・書面にて説明および同意を得た.
【事例紹介】50歳代,男性.入浴中に右半身のしびれと動かしにくさを認め,視床出血と診断.上肢機能は,BRS:上肢Ⅴ,手指Ⅴ,運動失調:軽度.握力:右21.0kg,左42.0kg.感覚障害は,SIAS:表在・深部共に0点,FMA-S:0/12点,母指探し試験:3度,痛覚:脱失.認知機能は,MMSE:29/30点.面接では,「どん底です.今は何も考えれない.」と悲観的な発言が聞かれた.
【経過】課題指向型訓練の導入を図った時期(第2病日~第7病日):本症例に,目標設定と介入への同意を得たうえで,麻痺手の集中的な練習を1日40~60分,週6日実施した.この時期は,目標設定が難しく,分離や巧緻動作の向上を目的とした.第1期終了時には,「食事ができるようにならないと」との発言がみられ,食事獲得を目標とした課題に移行した.生活上に麻痺手の参加を認め始めた時期(第8病日~16病日):麻痺の程度と使用行動を把握するため,FMA,ARAT,MALを評価した. FMA-UE:51/66点,ARAT:32/57点,MAL-AOU,QOM:0.38点.巧緻課題は難しく,使用頻度や使用感は低かったため,更なる上肢機能の向上を目的に,食具操作の類似課題を追加した.第2期終了時には,巧緻動作,物品操作に改善を認めた.しかし, 麻痺手を使う際に肩周りの不快感があり,麻痺手の使用は,食事と両手動作のみに限られ, さらに「右手で食べると余計に味がしない」と使用感も低かった. 生活での使用が継続できた時期(第17病日~第20病日):肩周りの不快感はわずかに軽減した.また,「持ってる感じがしない」と使用感は低いながらも食事では,スプーンを使用し小皿の品を完食できるようになった.「使っていくことが大事なんかな」と前向きな発言も聞かれた.
【結果】FMA-UE:61/66点,ARAT:44/57点,MAL-AOU:0.85点,QOM:0.62点に向上し,感覚障害は,SIAS:表在・深部共に0点,FMA-S:4/12,母指探し試験:0度と僅かに改善.生活上での麻痺手の使用は,両手動作や食事の一部に限られ,「持ってる感じがしない」と使用感は低かった.
【考察】今回,早期より課題指向型訓練に加え,Transfer packageを導入することにより,運動機能のみならず,作業遂行能力にも改善がみられた.一方,実生活での麻痺手の使用を汎化するには至らなかった.感覚障害が重度な場合, 適切な運動能力にもかかわらず,自発的に使用できない可能性が高く,運動機能を担保し,生活での不使用を避ける介入を可及的早期に導入することが重要であると考えられる.また,急性期以降の生活では,人前での使用,安全性,時間の制約といった不使用につながる要因がさらに増える.したがって,このような急性期の経過を踏まえながら,更なる作業遂行能力や不使用の改善に向けて,回復期や生活期のリハビリテーション関連職種と切れ目のない連携を図っていくことが重要であると考える.