[PA-5-11] 脳卒中により感覚性失語を呈した症例に対する,寿司職人の業務に焦点を当てた復職支援の実践
<背景>脳卒中後の復職は生きがいに深く関わっており,社会参加の一形態として重要な意義を有している.脳卒中患者の復職における作業療法士の役割は,身体機能や高次脳機能の評価に加えて,実際の職業に対する作業療法評価を行い,対象者自身や環境設定に働きかけることとされている.また,脳卒中患者の復職には様々な問題点があり,そのうちの1つとして個別性が高いことが挙げられている.しかし,個別の職業に対する具体的な復職支援に関する報告は不足しており,これまで寿司職人に対する復職支援の報告はない.
<目的>病前まで寿司職人として働いていた感覚性失語の症例に対し,回復期から寿司職人の業務に焦点を当てた復職支援を実践したところ,退院後に復職を果たしたため報告する.
<方法>症例は心原性脳塞栓症で感覚性失語を呈した50代男性であり,運動麻痺や感覚障害は認めなかった.表出は流暢だが,喚語困難,音韻性・意味性錯語,聴覚的把持力の低下を認めた.MMSEは15/30点,SLTAは聴く34/40点,話す56/70点,読む38/40点,書く27/35点,計算13/20点,仕事に対する認識は「職場に戻ればできるよ.」であった.Ⅰ期は,直接的言語訓練を3週間実施しつつ,寿司職人の業務内容を理解するため,聴取した寿司職人として働くために必要な業務をカテゴリー分類し,作業分析を行った.寿司職人の業務として,【注文を取る】【寿司の提供】【寿司ネタの管理】【コース料理の対応】【金銭の管理】の5つのカテゴリーが抽出された.Ⅱ期は,作業分析を基に,実際の業務に焦点を当てた訓練を5週間実施した.具体的には,作業療法士が客の役割を担い,寿司の写真を印刷した寿司カードを使用して,本人と協議して決定した【注文を取る】【寿司の提供】【コース料理の対応】の業務に対する模擬的なデモンストレーションを実施した.訓練を通して,業務遂行の可否や適応的な工夫の必要性について検討した.本報告は,患者に口頭及び書面による説明を行い,書面による同意を得て行った.
<結果>介入後,MMSEは22/30点,SLTAは聴く39/40点,話す66/70点,読む39/40点,書く32/35点,計算14/20点と言語機能全般の改善を認めた.実際の業務に焦点を当てた訓練において認めた問題点に対し,必要な工夫を症例が自ら提案した.具体的には,【注文を取る】において,メニューの説明をする際に喚語困難と錯語を認めたが,メモを手元に用意するという工夫により,客に対して正確なメニューの情報を説明することが可能となった.【寿司の提供】において,提供する卓番を誤る問題点を認めたが,注文内容を記載した伝票を卓番に照らし合わせて配置する工夫により,卓番を誤ることなく寿司の提供が可能となった.仕事に対する認識として「最初は難しいと思う.頭がさ.」と,自身の能力に対して現実的に洞察する発言が得られた.退院後,勤務時間と接客人数を調整し,寿司職人として復職を果たした.
<考察>本症例において,寿司職人の復職支援では,【注文を取る】【寿司の提供】【コース料理の対応】といった客との関わりを意識した評価および介入の視点が重要であった.また,その人らしい業務の形態を理解するためには,具体的な業務に対する作業分析が必要であった.業務に焦点を当てた訓練を実施することで,寿司職人の業務における現在の自身の能力に対する理解,適応的な手段の獲得が促進された可能性が考えられた.
<目的>病前まで寿司職人として働いていた感覚性失語の症例に対し,回復期から寿司職人の業務に焦点を当てた復職支援を実践したところ,退院後に復職を果たしたため報告する.
<方法>症例は心原性脳塞栓症で感覚性失語を呈した50代男性であり,運動麻痺や感覚障害は認めなかった.表出は流暢だが,喚語困難,音韻性・意味性錯語,聴覚的把持力の低下を認めた.MMSEは15/30点,SLTAは聴く34/40点,話す56/70点,読む38/40点,書く27/35点,計算13/20点,仕事に対する認識は「職場に戻ればできるよ.」であった.Ⅰ期は,直接的言語訓練を3週間実施しつつ,寿司職人の業務内容を理解するため,聴取した寿司職人として働くために必要な業務をカテゴリー分類し,作業分析を行った.寿司職人の業務として,【注文を取る】【寿司の提供】【寿司ネタの管理】【コース料理の対応】【金銭の管理】の5つのカテゴリーが抽出された.Ⅱ期は,作業分析を基に,実際の業務に焦点を当てた訓練を5週間実施した.具体的には,作業療法士が客の役割を担い,寿司の写真を印刷した寿司カードを使用して,本人と協議して決定した【注文を取る】【寿司の提供】【コース料理の対応】の業務に対する模擬的なデモンストレーションを実施した.訓練を通して,業務遂行の可否や適応的な工夫の必要性について検討した.本報告は,患者に口頭及び書面による説明を行い,書面による同意を得て行った.
<結果>介入後,MMSEは22/30点,SLTAは聴く39/40点,話す66/70点,読む39/40点,書く32/35点,計算14/20点と言語機能全般の改善を認めた.実際の業務に焦点を当てた訓練において認めた問題点に対し,必要な工夫を症例が自ら提案した.具体的には,【注文を取る】において,メニューの説明をする際に喚語困難と錯語を認めたが,メモを手元に用意するという工夫により,客に対して正確なメニューの情報を説明することが可能となった.【寿司の提供】において,提供する卓番を誤る問題点を認めたが,注文内容を記載した伝票を卓番に照らし合わせて配置する工夫により,卓番を誤ることなく寿司の提供が可能となった.仕事に対する認識として「最初は難しいと思う.頭がさ.」と,自身の能力に対して現実的に洞察する発言が得られた.退院後,勤務時間と接客人数を調整し,寿司職人として復職を果たした.
<考察>本症例において,寿司職人の復職支援では,【注文を取る】【寿司の提供】【コース料理の対応】といった客との関わりを意識した評価および介入の視点が重要であった.また,その人らしい業務の形態を理解するためには,具体的な業務に対する作業分析が必要であった.業務に焦点を当てた訓練を実施することで,寿司職人の業務における現在の自身の能力に対する理解,適応的な手段の獲得が促進された可能性が考えられた.