第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-15] 院内就労に向けた記憶障害事例への介入報告

永井 信洋, 牟田 博行, 髙木 弘美, 松浦 道子, 錦見 俊雄 (社会医療法人若弘会わかくさ竜間リハビリテーション病院リハビリテーション部)

<はじめに>高次脳機能障害者の就労において「当事者と職場が適切に障害を理解する事,当事者の強みを活かすためのリハビリテーションの働きかけ等が必要」とされている.若年記憶障害事例に対し,回復期リハビリテーション病棟(以下:回リハ病棟)転入院から退院,当院での就労とその定着に向け一連の支援を経験したため,以下に報告する.
<事例紹介>20代前半女性,母,姉夫婦と同居.専門学校卒業後1年程度歯科技工士として就労経験あり.夜間に突然のけいれん発作により救急搬送され,低酸素脳症の診断を受ける.26病日に当院回リハ病棟転入院.FIM:71/126点,日本版ウェクスラー式知能検査(以下:WAISーⅢ):VIQ76,PIQ87,FIQ79,日本版リバーミード行動記憶検査(以下:RBMT):SS3/12点,SPS8/24点,遂行機能障害症候群の行動評価日本版(以下:BADS):標準化得点86,Trail Making Test日本版(以下:TMT-J):A44秒,B130秒.「今さっきの事が数日前のように感じる」と話し,習慣化された内容は一部記憶可能であるものの,前向性健忘,及び発症前半年の逆向性健忘,見当識低下による重度記憶障害,転換性注意や処理速度の低下などを認めた.運動麻痺は認めず独歩は安定していたが,病棟生活では声掛けが必要であり,症状の理解も困難であった.事例は楽観的な面はあるものの,綺麗好きで明るく人懐こい性格であり,家族ともに将来的な社会復帰をニーズとしていた.日常生活能力の改善から就労移行へと段階的に支援していく事とした.
<経過①>Ⅰ.回リハ病棟での介入(27~205病日)
記憶障害や年齢などを考慮し,スマートフォンのアプリケーションとノートを活用し,病棟での日常生活能力の獲得を図りつつ症状理解を促した.また家族に障害特性や作業能力について理解を促すため,家族同伴での院外の外出訓練や調理練習などを経験した.
205病日にはFIM:120/126点,WAISーⅢ:VIQ88,PIQ98,FIQ91,RBMT:SS3/12点,SPS9/24点,BADS:標準化得点86,TMT-J:A30秒,B55秒となり,記憶障害は残存しているものの注意機能等は改善を認めた.就労支援機関と調整を行い退院後は就労習慣の定着を図るため就労継続支援B型の利用をすすめた.
<経過②>Ⅱ.就労継続に向けた介入(205~561病日)
外来での作業療法介入を継続しつつ,約3か月の就労継続支援B型の利用の後,時短勤務で看護補助職として当院での勤務を開始した.勤務するにあたり,就労準備として家族と協力して自宅での出勤前準備や通勤練習を行った.また看護部門と事例の症状や強みを活かした業務内容を検討した.事例の持前の明るさもあり,記憶障害に対する代償手段を活用しつつ,ベッドサイドの環境整備や入院患者の食具の洗浄などのルーチン化された業務に取り組めるようになり現在も就労を継続している.
<結果>561病日,FIM121/126点,RBMT:SS4/12点,SPS13/24点.慣れた業務であれば代償手段は不要となり,遅刻などなく継続勤務できている.勤務後は犬の散歩や風呂掃除などの家庭内での役割も担っている.一定の社会復帰が果たされたことで,友人関係との余暇や一人暮らしの練習など,事例について家族は新たな課題を検討されている.
<結語>今回,回リハ病棟での症状理解の促しと代償的アプローチを主体とした日常生活能力の獲得に加え,退院後の就労継続に向けて事例の症状と強みに応じた職場内連携や業務環境の調整など,社会復帰に向け段階的で切れ目のない支援を提供できたと考える.またこれらの支援は,緩やかではあるものの事例の継続した機能回復における一助になったと考える.