第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-2] 右上1/4同名半盲が神経心理学的検査とドライビングシミュレーター評価に与える影響(1症例報告)

清水 雅裕, 後藤 進一郎, 石川 真希, 渡邉 郁人, 大塚 澪花 (刈谷豊田総合病院リハビリテーション科)

【序論】
自動車運転時の視覚は,一眼が見えない場合のみ法律上問題となる.半盲の視覚障害に,道路交通法の基準はない.2014年Haanらは,半盲があっても,良好な視覚走査および運転態度であれば,路上試験に有意に合格してしまうため,実車指導で安全性を高める重要性を述べている.また,視野異常と交通事故との関連を示唆する報告もある(警察庁,2021).現在,半盲を有する患者の運転の安全性は,明確になっていない.
【目的】
右上1/4同名半盲(以下,半盲)が神経心理学的検査とドライビングシミュレーター評価に与える影響について検証した.
【方法】
対象は40歳代男性で,8年前に左側頭葉腫瘍を発症し,半盲を呈した.治療が安定し,日常生活では半盲の影響はなくIADLは自立(FIM合計120点・麻痺なし)した.今回,復職のために自動車運転再開を希望され,主治医より評価の依頼があった.外来作業療法で神経心理学的検査(9評価)とドライビングシミュレーター評価(以下,DS)を実施した.神経心理学的検査は,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価(SDSA),MMSE-J,Trail Making Test日本版(TMT-J),BIT(行動性無視検査),Rey複雑図形模写検査,レーヴン色彩マトリックス検査(RCPM),標準注意検査法の持続性注意検査2(CAT-CPT2)とSDMT,遂行機能障害症候群の行動評価(BADS動物園地図検査のみ),コース立方体組み合わせテストを実施した.DSは,1週間毎に合計3回評価し,同年代との比較をした.倫理的配慮は当院倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には同意書を用いて説明した. 
【結果】
神経心理学的検査(カットオフ値)において,当院の自動車運転再開の判定基準以上は,SDSA:運転再開を検討しても良い認知機能,MMSE-J:28(24)点,TMT-J:A・B正常,BIT合計:142(131)点の4項目だった.基準以下は,Rey複雑図形:模写34(34.6)点・即時再生13(23.2)点,RCPM:セットB得点5(11)点, CAT-CPT2:反応時間405(548)秒・誤反応数1(11)・SDMT達成率:27(49)%,BADS動物園地図検査:2(3)点,コース立方体テスト:IQ58(80)の5項目だった.DS(1回目/2回目/3回目)は,運転反応検査総合判定:Dやや注意/Dやや注意/C普通,ハンドル操作正確さ:E不安/D注意/C普通,ハンドル操作適応性:D注意/C普通/C普通,ハンドル操作左右バランス:B良好/D注意/B良好.運転操作課題(直線路)視野見落とし数:右5左1/右2左0/右4左1,視野反応時間低下数:右4左2/右7左3/右1左0.総合学習体験2全般:E不安/E不安/E不安.自動車運転再開の判定基準から,運転再開は不可となった.
【考察】
神経心理学的検査は,頚部を左右に動かして半盲を代償していたが,9評価中の5評価で運転再開判断の基準に達していなかった.また,DSでは視野見落とし数と視野反応時間低下数から,画面が移り変わることで必要とされる視覚情報の早急な処理に,頚部の代償が間に合わず,半盲の影響が,より顕著に表れた結果となったと捉えた.Hartman(1970)は,自動車運転に必要な情報は,視覚が90%を占めると述べている.半盲を有する患者の自動車運転評価は,日常生活が自立していても,神経心理学的検査とDSを通して安全性を確認する必要があると考えた.