第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-9] 我が国に向けた実車評価SOADの弁別的妥当性の検証

坂上 夏菜1, 澤田 辰徳2 (1.医療法人社団 健育会 湘南慶育病院リハビリテーション部, 2.東京工科大学 医療保健学部リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【はじめに】
 近年,我が国では脳損傷後の運転評価が注目を浴びている.我が国の代表的な実車評価には,市街地での走行を想定した15項目からなるRoad Testがあるが信頼性と妥当性が担保されていない(堀ら,2017).我々は日本の道路環境を見据えた実車評価であるStandardized On-road Assessment for Drivers(SOAD)を開発し,内容妥当性を明らかにしたが(Sawada et al.,2021),他の妥当性は明らかになっていない.本研究の目的は運転技能に関係のある神経心理学的検査とSOADの校内評価における弁別的妥当性を明らかにすることである.
【対象】
 対象は,研究協力が得られた自動車運転評価を行なっている5病院のうち自動車運転評価のためにリハビリテーションの指示が出ている脳損傷者で実車評価を行うものかつ検査に支障をきたす失語症がなく,本研究に同意が得られたものとした.なお,本研究に先立ち研究計画は東京工科大学倫理委員会の倫理審査により承認されている(承認第21HS-019番号).
【方法】
 実車評価を行うにあたり指定自動車教習所内の教習コースを利用し,補助ブレーキ付き車両にて教習指導員および作業療法士同乗のもと行った.SOADは校内評価と路上評価の2種類があり,校内評価は運転に関する8カテゴリー(心身機能,認知機能,運転装置の取り扱い,運転態度,車両位置,法規走行,基本走行,安全確認)40項目と危険行為の4項目の計44項目で採点する.40項目については0~2点の3段階で採点をする.
 今回はこの40項目の各カテゴリーにおける合計点を変数とした.机上評価には自動車運転の評価でよく利用されるMini Mental State Examination(MMSE),Trail making test(TMT),Rey Osterrieth Complex Figure Test(ROCF),Stroke Drivers’Screening Assessment Japanese Version(SDSA-J),Kohs Block Design Test(KBDT)を実施し,SOADとの相関関係を調査した.統計解析ではSpeamanの相関係数を用い,有意水準は5%とした.
【結果】
 5施設から100名が研究に参加した.平均年齢55.13±10.24歳で対象の疾患の内訳は,脳梗塞の者が51名,脳出血の者が29名,くも膜下出血の者が12名,頭部外傷の者が3名,その他の者が5名であった.
 各カテゴリーと各机上評価との相関関係を見た結果0.4より大きい相関があるものはなかった.各机上評価で相関係数が高かったものは,「認知機能」のカテゴリーでTMT-J A(r=-0.35,p<0.01),TMT-J B(r=-0.33,p<0.01),SDSA ドッド抹消ミス数(r=-0.30,p<0.01),SDSA スクエアマトリックス(r=0.31,p<0.01),「車両位置」のカテゴリーでSDSA ドッド抹消ミス数(r=-0.40,p<0.01),「法規走行」のカテゴリーでSDSA ドッド抹消ミス数(r=-0.30,p<0.01),SDSA スクエアマトリックス(r=0.38,p<0.01),「基本走行」のカテゴリーでSDSA ドッド抹消ミス数(r=-0.39,p<0.01)となった.
【考察】
 今回の結果において多くが相関が無く,相関係数があった項目でも多くが|0.4|以下であった.したがって,机上評価と実車評価であるSOADのカテゴリーには相関が低いということが言える.また各机上評価のうち弱い相関が多くみられたのはTMT-JとSDSAであり,これらの評価は先行研究で運転技能と関連する評価と一致する(加藤ら,2008).これらのことから,今回の結果はSOADの弁別的妥当性を根拠づけるものであると考える.