[PA-6-10] 身体所有感が低下した右視床出血者に対し,動作介入を一旦休止し,麻痺肢自体に着目して介入した一例
【はじめに】脳卒中後,麻痺肢に対し「石のようだ」「他人の手のようだ」といった異常な認知体験を認める場合がある.これは身体意識の変容を基盤とした身体失認の一種であり(Feinberg,2010),自分の身体が自分のものであるという身体所有感が低下しやすい.今回,入院2ヶ月時点で麻痺肢への異常な認知体験を認めた右視床出血患者に対し,動作介入を一旦休止し,麻痺肢自体に着目した介入を実施した.結果,異常な認知体験は消滅し,身体所有感は改善し,麻痺肢を用いた生活動作が改善した経験について報告する.尚,報告にあたり対象から書面を用いて同意を得た.
【対象・評価】対象は右視床出血,左上下肢麻痺を呈した右利き60歳代男性,発症1ヶ月経過し当院回復期リハビリテーション病棟に入院した.入院時,MMSE 27点,TMT A64秒B95秒,FAB18点,会話良好,麻痺肢の改善を強く望まれた.作業療法では主に左上肢動作訓練とADL動作訓練を実施した.入院2ヶ月時点,上肢機能評価は入院時からの変化としてFMA39点→49点,SIAS表在感覚2→3点,深部感覚1→3点と改善を認めた.しかし,麻痺手の使用状況評価MALではAOU1.1→1.2,QOM1.4→1.4と変化は少なく,これは麻痺手の使用を促すTransfer Package(以下,TP)を用いた結果であった.生活場面では,移乗・トイレ動作が軽介助と入院時から変化せず,麻痺肢は管理できるがまるで体躯から延長した物体のように扱っていた.半側身体失認評価Fluff Test 21/24点で評価基準から症状は否定された.しかし,麻痺肢が「フワフワした感じ,違う所にある感じ」と入院時にはない発言が認められ,主観的な身体意識を評価する日本版ケンブリッジ離人尺度(以下,CDS)の29項目中,所有感の低下に関する4項目が当てはまった.
【介入と経過】入院2ヶ月時点で身体所有感の低下を認めた症例に対し,介入前期では動作訓練やTPを一旦休止し,麻痺肢に着目した介入を2週間実施した.主に麻痺肢へのセルフタッチを行い,場所の同定,サイズや形態への追求を実施した.また麻痺肢の「気になった事,分かった事」を自主的にノートへ記載し,具体的に口頭で説明するよう促した.介入後,麻痺肢への異常な発言は減少し,麻痺肢への注視やその特徴を発言する頻度が増加した.介入後期では,休止した動作訓練やTPを再開した.その際に,麻痺肢を用いた動作の予測と結果との差について,対象に訓練内では即時に言語化,訓練外ではノートへ記載するよう促し,その後セラピストと共有し動作の修正を図った.
【結果】介入開始から1ヶ月後,身体機能に変化は認めないが,MALがAOU2.7,QOM2.7と改善し,CDSは全ての項目に当てはまらず異常な認知体験は消失した.ノートには未介入の生活動作での麻痺手の使用,生活動作での麻痺肢を用いた方略に関する記載を認め,その後移乗・トイレ動作が自立となった.
【考察】身体意識に関与するcomparatorモデル(Blakemore,2003)では,動作時に運動指令を基に予測される感覚フィードバックと実際の結果とを比較した際,不一致を認め,それが継続することで身体意識の変容が生じ,身体所有感を低下させる可能性があると報告されている(Osumi,2017).今回,病巣や入院時の感覚障害から,比較機関が正常に作動せず不一致を検出しやすくなり,更に動作を求める介入を継続したことが異常な認知体験を認める結果となった.そのため,麻痺肢自体に介入を行うことで比較機関を再教育し正常化させ,その後の動作介入時の効果が期待でき,身体所有感の改善に繋がったと考えられた.今後,TPを実施する際は,病巣や症状,麻痺手への認識を事前に確認する必要があると考えられた.
【対象・評価】対象は右視床出血,左上下肢麻痺を呈した右利き60歳代男性,発症1ヶ月経過し当院回復期リハビリテーション病棟に入院した.入院時,MMSE 27点,TMT A64秒B95秒,FAB18点,会話良好,麻痺肢の改善を強く望まれた.作業療法では主に左上肢動作訓練とADL動作訓練を実施した.入院2ヶ月時点,上肢機能評価は入院時からの変化としてFMA39点→49点,SIAS表在感覚2→3点,深部感覚1→3点と改善を認めた.しかし,麻痺手の使用状況評価MALではAOU1.1→1.2,QOM1.4→1.4と変化は少なく,これは麻痺手の使用を促すTransfer Package(以下,TP)を用いた結果であった.生活場面では,移乗・トイレ動作が軽介助と入院時から変化せず,麻痺肢は管理できるがまるで体躯から延長した物体のように扱っていた.半側身体失認評価Fluff Test 21/24点で評価基準から症状は否定された.しかし,麻痺肢が「フワフワした感じ,違う所にある感じ」と入院時にはない発言が認められ,主観的な身体意識を評価する日本版ケンブリッジ離人尺度(以下,CDS)の29項目中,所有感の低下に関する4項目が当てはまった.
【介入と経過】入院2ヶ月時点で身体所有感の低下を認めた症例に対し,介入前期では動作訓練やTPを一旦休止し,麻痺肢に着目した介入を2週間実施した.主に麻痺肢へのセルフタッチを行い,場所の同定,サイズや形態への追求を実施した.また麻痺肢の「気になった事,分かった事」を自主的にノートへ記載し,具体的に口頭で説明するよう促した.介入後,麻痺肢への異常な発言は減少し,麻痺肢への注視やその特徴を発言する頻度が増加した.介入後期では,休止した動作訓練やTPを再開した.その際に,麻痺肢を用いた動作の予測と結果との差について,対象に訓練内では即時に言語化,訓練外ではノートへ記載するよう促し,その後セラピストと共有し動作の修正を図った.
【結果】介入開始から1ヶ月後,身体機能に変化は認めないが,MALがAOU2.7,QOM2.7と改善し,CDSは全ての項目に当てはまらず異常な認知体験は消失した.ノートには未介入の生活動作での麻痺手の使用,生活動作での麻痺肢を用いた方略に関する記載を認め,その後移乗・トイレ動作が自立となった.
【考察】身体意識に関与するcomparatorモデル(Blakemore,2003)では,動作時に運動指令を基に予測される感覚フィードバックと実際の結果とを比較した際,不一致を認め,それが継続することで身体意識の変容が生じ,身体所有感を低下させる可能性があると報告されている(Osumi,2017).今回,病巣や入院時の感覚障害から,比較機関が正常に作動せず不一致を検出しやすくなり,更に動作を求める介入を継続したことが異常な認知体験を認める結果となった.そのため,麻痺肢自体に介入を行うことで比較機関を再教育し正常化させ,その後の動作介入時の効果が期待でき,身体所有感の改善に繋がったと考えられた.今後,TPを実施する際は,病巣や症状,麻痺手への認識を事前に確認する必要があると考えられた.