第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-11] 再生医療とリハビリテーションの併用で食事動作の改善を認めた症例

池田 大陸, 秋吉 朋子, 古川 繁, 北原 浩生 (社会医療法人令和会 熊本リハビリテーションリハビリテーション部)

【はじめに】当院では脂肪由来幹細胞(以下ADRCs)を用いた再生医療を行っている.これまでADRCsを用いた再生医療術後の結果,身体機能改善を認めた報告は有るが,具体的なADLの改善を認めたという報告は少ない.そこで今回,再生医療術後の上肢手指機能改善に着目し,短対立スプリントを作成するなどOT介入を行った結果,指腹つまみを獲得し食事動作の改善を認めたので報告する.なお,本発表は症例本人の同意を書面で得ている.
【症例紹介】症例は60代男性.診断名は脊髄損傷(C5-6,ASIA機能障害尺度C).X年Y月に転倒し脊髄損傷受傷.X+2年Y+5月に当院で再生医療施行.術前の機能面は痙性強く,手関節・手指共に拘縮有り,拇指はCM関節外転,MP・IP関節屈曲方向へ変形し僅かな側腹つまみのみ行えた.食事動作は左手に万能カフ+変形スプーン装着し自立していた.デマンドは「箸で食事がしたい」.
【方法】再生医療術後に作業療法を1日3単位,2ヵ月間実施した.その中でMTDLPを使用し本人と合意目標「左手にて自助箸使用し食事動作自立」を設定した.また,左手には短対立スプリントを作成し訓練を行った.評価は機能面をAIS,ROM,握力,MASでADLを運動FIMで術前,術後,退院時に行い,合意目標の実行度,満足度をMTDLPで初期(術後2週),最終(退院時)で行った.
【経過】術後,上肢手指の筋緊張低下し,ROM,筋力,感覚の改善を認めた.訓練はさらなる機能改善を図る為,ストレッチや筋力増強訓練などの機能訓練を主に実施した.術後2週目にMTDLP実施し上記合意目標を設定した.その後,指腹つまみの獲得と自助箸(箸ぞう君)を使用する為に左手に短対立スプリントを作成した.通常の短対立スプリントと異なり拇指MP関節背側が当たる箇所にクッション材を挿入し,IP関節伸展を補助する為に指腹のスプリント材をIPより上部まで延長するなどの工夫を行った.短対立スプリント完成後,訓練室での動作訓練を経て,術後1ヵ月で左手にて短対立スプリントと自助箸使用し食事動作自立となった.本人からは涙ながらに「箸で食べると美味しいですね.」といった発言が聞かれた.その後は食事動作の習熟を図りつつ,他の動作訓練や自助具作成を行った.
【結果】術前→術後→退院時の順で表す.AIS運動スコア(右/左):上肢10/11→14/15→15/16,知覚スコア:表在触覚35/32→50/50→56/56,ピン痛覚22/19→25/23→20/18,ROM:肩屈曲・外転80/100→90/110→110/130,手関節掌屈50/55→60/60→90/70,背屈65/25→70/60→70/70,母指掌側外転10/10→30/35→45/60,握力:0㎏/0.5㎏→0.5㎏/1.5㎏→1㎏/3.5㎏,MAS:両肩・両肘・左手掌屈・右手背屈2,両手指屈曲1+→肩1+/1,肘屈曲1+/0,左手掌屈・右手背屈0,両手指屈曲1→同前,運動FIM:25点(食事・整容以外全介助)→同前→同前.合意目標「左手にてスプリントと自助箸使用し食事動作自立」(実行度/満足度):初期1/1→最終9/8.
【考察】今回,再生医療で手関節・手指の筋緊張の低下とROMの改善を認め,さらなる機能訓練で筋力・握力の向上も認めた為,母指を対立位に保持できればテノデーシスアクションによる指腹つまみが獲得できると考え,短対立スプリントの作成に至った.結果,指腹摘まみを獲得することができ,食事動作の改善に繋がったと考える.症例のように再生医療術後,機能改善を認め,患者自身もその変化に気付いたとしても,さらなる強化やADL,生活行為に生かすのは難しい.また今回は短対立スプリントの改良や自助具の選定も必要で有り,作業療法士の介入なしでは食事動作の改善は困難であったと考える.