第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-13] 右手の過活動と左上肢の運動麻痺により左手の不使用が目立った両側脳梗塞後遺症の一症例

池田 静架1, 谷 鈴菜1, 高橋 彩加1, 新田 武弘2, 湯浅 義人2 (1.社会医療法人頌徳会 日野病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人頌徳会 日野病院診療部)

【はじめに】
森ら(1996)は前頭葉病変による行為•行動の障害は外的刺激,内的要求,意志に対する非刺激閾値の低下,短絡処理,反復という点に障害の特徴をまとめられると述べている.今回,もやもや病にて左前頭葉内側を中心とした両側脳梗塞により右手の過活動と左上肢の運動麻痺を呈した症例を経験した.物品操作,日常生活動作(以下ADL)において段階づけながら介入したことでADL自立に繋がった為報告する.尚,発表について口頭にて本人に説明し,代諾者から同意を得ている.
【症例紹介】
症例は成人もやもや病にて右一次運動野,左補足運動野,運動前野,前部帯状回に両側脳梗塞を認めた40歳代後半女性である.術後3ヶ月後に当院へ転院となった.入院時のFMA-UEは右66点,左43点,感覚機能は左上下肢のみ表在,深部共に軽度鈍麻であった.STEFは右89点,左3点で左手の指示動作で頻回に右手が出現した.右手は目の前に櫛が置かれると指示なく髪をとく行動や,左手を意図的に使用しようとすると勝手に右手を使用してしまう脱抑制的症状が見られた.右手に対し自己所有感はあるが「勝手に動いてしまう手」と認識していた. 左手のMALはAOU,QOMが0.2点と日常生活での不使用が目立ち,左手に対して「使えない手」と否定的な表出があった.高次脳機能は選択的・分配的注意障害を認め,左半側空間無視や身体図式の崩れはみられなかった.基本動作は目的の動作に注意が向くと動作が粗雑となり,起居では左上肢が布団に包まれたまま気づかない場面があった.運動FIMは46/91点であり,更衣,入浴,排泄において両手操作が困難で介助を要していた.
【介入方針】
症例は右手の脱抑制的症状に加え,左上肢麻痺,注意障害により動作時に左上肢に対する不注意やADLでの左手の不使用が目立ったと考えた.そのため,右手を抑制しながら左上肢への認識,注意を促し,物品操作,両手操作と段階づけながらADL自立を目指した.
【経過】
左上肢操作練習では,右手の過活動を抑制するため症例自身が大腿の下に手を入れ,押さえて動かないようになどの外的制御を行いながら実施した.外的制御なく左手で単純な物品操作が可能となってから,徐々に複雑な物品操作に課題難易度を変更し,その後両手操作練習やADL練習を開始した.両手操作では左手の不使用や拙劣さが目立ち,両手操作における巧緻性の段階も単純な操作から介入した.また,日常生活で左手を使用する場面を設定し,3日ごとに実施できているか確認した.必要に応じて内容を変更し,徐々に日常生活で左手を使用する場面を徐々に増やした.
【結果】
左上肢のFMA-UEは60点, STEFは右95点,左44点で左手の指示動作で右手が出現することがなくなった.左手のMALはAOU4.2点,QOM3.9点となり, 日常生活で自ら左手を使用する場面が増加した.また,左手に対し「なんとか使える手」と発言し,課題難易度が上がると右手優位で動作を行ってしまう場面はあるが,意識的に右手を抑制しつつ左手を使用した物品使用や両手操作を行うことができるようになった.注意障害は残存するものの,基本動作では起居時において左手の管理が可能となり,FIMは84/91点で入浴が見守り,他動作は全て自立となった.
【考察】
今回,本人の意図にそぐわない右手の過活動に加え,左上肢の運動麻痺を呈し左手の不使用が目立った症例に対し, 右手を抑制しながら左上肢への認識を促し,両手操作,ADL練習と課題難易度を段階づけて介入した.その結果,右手の過活動の改善と,左上肢の日常生活の参加頻度が向上し,ADL自立に繋がった.