[PA-6-14] 両側前頭葉損傷後に自発性低下を認めた症例
【はじめに】自発的な行動生起には情動・感情的処理,認知的処理,自動活性化処理の3つの継続過程が重要(Levyら,2006)であるが,介入方法には決定的戦略がないのが現状である(酒井,2018).今回,両側前頭葉の脳挫傷と外傷性くも膜下出血後に自発性低下を認めた症例に対し,ADL場面での各処理段階を評価し,自発的な行動生起を目的に将棋を用いた介入を試みたところ良好な結果を得たため報告する.
【症例】本発表に同意を得た70歳代男性.両側前頭葉の脳挫傷と外傷性くも膜下出血を呈し,4日後に血腫除去術が施行された.損傷部位は左半球優位に両側前頭葉内側に及び,軽度運動麻痺,中等度運動性失語,前頭葉機能障害を認めた.介入初期は失語症を考慮して動作性の課題を行い,ADLは見守りレベルまで改善したが,自発性の低下は残存した.
【作業療法評価(96~99病日)】Br.stageはⅤ-Ⅴ-Ⅴ,MMSEは7点,FABは4点,RCPMは実施困難で,失語症による言語性検査での成績低下に加え,動作性検査においても視覚性注意の低下を認めた.FIMは89点で,情動メカニズムに基づいたADL評価では,情動・感情的処理に関して,失禁や病衣汚染を知覚しても不快感を訴えなかった.認知的処理に関しては,トイレのパッド交換と食事のセッティングには介助を要したが,その他の動作は可能であった.自動活性化処理に関しては,自ら排泄や更衣を行うことはなく動作誘導を要し,反復練習では改善がなかった.やる気スコアは18点で,「何事にも無関心ですか」の問いに対し「大いに」と回答した.一方で,興味・関心チェックシートでは将棋に強い興味を示した.将棋という作業活動を情動メカニズムの視点から考えると,情動・感情的処理による勝敗に応じた情動変動,認知的処理による計画性ある思考,自動活性化処理による一手を指す際の行動生起が挙げられる.実際に療法士と対局してみると,積極的に取り組む様子がみられ,勝敗に応じた笑顔などの感情表出,数手先を読んだ計画性のある思考が可能であることが分かった.
【病態解釈・治療仮説】ADL場面から情動メカニズムの情動・感情的処理と自動活性化処理に障害が認められた.しかし,症例は病前から興味のある将棋に限り情動・感情が喚起され,ルールを理解しているため認知的側面での負荷が低かったことも作用して,自ら一手を指すという意思決定・実行が可能であり,情動メカニズムにおけるすべての処理段階が駆動する一面が観察された.以上より,将棋を用いて情動メカニズムの駆動を繰り返し促すことができれば,ADL場面の課題となっている自発的な行動生起が可能になると考えた.
【介入】1日1時間,2週間将棋を実施した.段階付けは対局時間を調整することで行った.
【結果】介入2週間後,MMSEは9点,FABは5点,RCPMは9点となり,前頭葉機能の向上を認めた.FIMは113点へ向上し,ADL場面では日差はあるものの,失禁や病衣汚染を知覚すると不快感を訴えるようになった.トイレ動作と更衣動作においては,自らオムツとパッドを持参してトイレへ向かう,新しい病衣を手に取り更衣を行うようになり,動作誘導は軽減した.やる気スコアは12点となり,「何事にも無関心ですか」の問いに対し「少し」と回答するなど,自発性向上が窺える発言が増加した.
【考察】将棋は,思考において右前頭葉が指導的に働き,左右半球で情報交換しながら前頭部をアシストしているとされる(本田,2009).本症例は,右半球の血腫量が少なかったことから,残存した右半球ネットワークが賦活された結果,自発性が向上し,前頭葉機能の改善にも繋がった可能性が考えられた.
【症例】本発表に同意を得た70歳代男性.両側前頭葉の脳挫傷と外傷性くも膜下出血を呈し,4日後に血腫除去術が施行された.損傷部位は左半球優位に両側前頭葉内側に及び,軽度運動麻痺,中等度運動性失語,前頭葉機能障害を認めた.介入初期は失語症を考慮して動作性の課題を行い,ADLは見守りレベルまで改善したが,自発性の低下は残存した.
【作業療法評価(96~99病日)】Br.stageはⅤ-Ⅴ-Ⅴ,MMSEは7点,FABは4点,RCPMは実施困難で,失語症による言語性検査での成績低下に加え,動作性検査においても視覚性注意の低下を認めた.FIMは89点で,情動メカニズムに基づいたADL評価では,情動・感情的処理に関して,失禁や病衣汚染を知覚しても不快感を訴えなかった.認知的処理に関しては,トイレのパッド交換と食事のセッティングには介助を要したが,その他の動作は可能であった.自動活性化処理に関しては,自ら排泄や更衣を行うことはなく動作誘導を要し,反復練習では改善がなかった.やる気スコアは18点で,「何事にも無関心ですか」の問いに対し「大いに」と回答した.一方で,興味・関心チェックシートでは将棋に強い興味を示した.将棋という作業活動を情動メカニズムの視点から考えると,情動・感情的処理による勝敗に応じた情動変動,認知的処理による計画性ある思考,自動活性化処理による一手を指す際の行動生起が挙げられる.実際に療法士と対局してみると,積極的に取り組む様子がみられ,勝敗に応じた笑顔などの感情表出,数手先を読んだ計画性のある思考が可能であることが分かった.
【病態解釈・治療仮説】ADL場面から情動メカニズムの情動・感情的処理と自動活性化処理に障害が認められた.しかし,症例は病前から興味のある将棋に限り情動・感情が喚起され,ルールを理解しているため認知的側面での負荷が低かったことも作用して,自ら一手を指すという意思決定・実行が可能であり,情動メカニズムにおけるすべての処理段階が駆動する一面が観察された.以上より,将棋を用いて情動メカニズムの駆動を繰り返し促すことができれば,ADL場面の課題となっている自発的な行動生起が可能になると考えた.
【介入】1日1時間,2週間将棋を実施した.段階付けは対局時間を調整することで行った.
【結果】介入2週間後,MMSEは9点,FABは5点,RCPMは9点となり,前頭葉機能の向上を認めた.FIMは113点へ向上し,ADL場面では日差はあるものの,失禁や病衣汚染を知覚すると不快感を訴えるようになった.トイレ動作と更衣動作においては,自らオムツとパッドを持参してトイレへ向かう,新しい病衣を手に取り更衣を行うようになり,動作誘導は軽減した.やる気スコアは12点となり,「何事にも無関心ですか」の問いに対し「少し」と回答するなど,自発性向上が窺える発言が増加した.
【考察】将棋は,思考において右前頭葉が指導的に働き,左右半球で情報交換しながら前頭部をアシストしているとされる(本田,2009).本症例は,右半球の血腫量が少なかったことから,残存した右半球ネットワークが賦活された結果,自発性が向上し,前頭葉機能の改善にも繋がった可能性が考えられた.