[PA-6-2] 分水嶺梗塞後のCorticofugal Tractの信号強度の経時的変化:T2強調画像を用いた単一症例検討
【序論】MRIのT2強調画像(T2WI)では,健常者においても画像コントラスト調整により,手の運動機能に関与するCorticofugal Tract(CFT)が周辺組織よりも高信号域として可視化できる.脳卒中後には,損傷領域と連続性のある非損傷領域の神経線維の軸索が2次的に変性や脱髄を起こすワーラー変性が生じる.ワーラー変性が重症であるほど上肢機能は低下するとされ,脳画像読影では重要な所見となる.ワーラー変性が生じた場合,T2WIでは高信号域として描出される.すなわち,脳卒中後にT2WIで確認できるCFTの高信号には,ワーラー変性の影響が経時的に影響すると考えられる.
【目的】脳卒中後の症例のT2WIにおけるCFTの信号強度の変化を,上肢機能の変化を参照して検討し,臨床におけるT2WIの脳画像読影時の知見を得ることである.
【症例と方法】症例は,右前頭頭頂葉境界部の分水嶺梗塞により,左片麻痺を呈した右利き手の60歳代の女性である(発表に関し,口頭・書面にて了承を得た).身体機能は,38病日目(入院時)は,下肢の運動麻痺と感覚障害はなかったが,左上肢に運動麻痺を認めた(上肢Fugl-Mayer Assessment [FMA]:40点 [肩・肘・前腕/手関節/手指/協調運動:36/0/0/4];握力[右/左]:19.9kg/0.0kg;STEF [右/左]:100点/0点).122病日目(退院時)には,上肢機能の向上を認めた(FMA:64 [36/9/13/6]点;握力[右/左]:23.0kg / 9.5kg;STEF[右/左]:97点/ 64点).T2WIの解析には,発症前,38病日目(入院時),55病日目,87病日目,122病日目(退院時)に撮像した画像を用いた.T2WIの画像コントラストを調整後,内包後脚におけるCFTの中央を通過する線分上の信号強度をImageJを用いて測定し,左右CFT領域の平均信号強度値と信号強度比(=右/左)を算出した.また,FLAIR画像にてCFTの走行領域における高信号域の有無を確認した.
【結果】左右CFTの信号強度比は,発症前は0.06(平均信号強度値 右CFT:8.4±3.2;左CFT:150.3±20.5)であり,発症後の38病日目(入院時)は0.46(平均信号強度値 右CFT:45.0±35.1;左CFT:97.7±53.9),55病日目は0.83(平均信号強度値 右CFT:81.8±48.1;左CFT:98.1±34.6),87病日目は1.03(平均信号強度値 右CFT:120.9±49.1;左CFT:117.5±34.2),122病日目(退院時)は0.76(平均信号強度値 右CFT:97.5±34.9;左CFT:127.7±47.3)であり,経過とともに損傷側の信号強度は増加した.FLAIR画像では,右大脳脚から内包後脚にかけて38病日目(入院時)には高信号域を認めなかったが,122病日目(退院時)には高信号域が確認された.
【考察】発症前の右CFTよりも,左CFTで高信号を示したことは,右利き手者では,左CFTが右CFTよりも高信号に描出される傾向がある先行研究と同様の傾向が確認された.損傷半球のCFTの信号強度は,発症以後に増加し,非損傷半球と同程度になった.この間,FLAIR画像では大脳脚で高信号域を認めたことから,ワーラー変性の進行がT2WIの信号変化の要因と考えられた.ワーラー変性が重症であるほど上肢機能は低下するとされるが,本症例はワーラー変性と考えられる信号が亢進する過程でも,上肢機能が向上することを示していると考えられた.
【結論】脳卒中後,損傷半球のCFTにワーラー変性が生じる場合であっても,早期からリハビリテーション治療を進めることは,上肢運動機能の回復に寄与することが示唆された.脳卒中後の症例の損傷半球のCFTが,高信号域として描出されている場合,FLAIR画像でワーラー変性の有無を確認して判断する必要がある.
【目的】脳卒中後の症例のT2WIにおけるCFTの信号強度の変化を,上肢機能の変化を参照して検討し,臨床におけるT2WIの脳画像読影時の知見を得ることである.
【症例と方法】症例は,右前頭頭頂葉境界部の分水嶺梗塞により,左片麻痺を呈した右利き手の60歳代の女性である(発表に関し,口頭・書面にて了承を得た).身体機能は,38病日目(入院時)は,下肢の運動麻痺と感覚障害はなかったが,左上肢に運動麻痺を認めた(上肢Fugl-Mayer Assessment [FMA]:40点 [肩・肘・前腕/手関節/手指/協調運動:36/0/0/4];握力[右/左]:19.9kg/0.0kg;STEF [右/左]:100点/0点).122病日目(退院時)には,上肢機能の向上を認めた(FMA:64 [36/9/13/6]点;握力[右/左]:23.0kg / 9.5kg;STEF[右/左]:97点/ 64点).T2WIの解析には,発症前,38病日目(入院時),55病日目,87病日目,122病日目(退院時)に撮像した画像を用いた.T2WIの画像コントラストを調整後,内包後脚におけるCFTの中央を通過する線分上の信号強度をImageJを用いて測定し,左右CFT領域の平均信号強度値と信号強度比(=右/左)を算出した.また,FLAIR画像にてCFTの走行領域における高信号域の有無を確認した.
【結果】左右CFTの信号強度比は,発症前は0.06(平均信号強度値 右CFT:8.4±3.2;左CFT:150.3±20.5)であり,発症後の38病日目(入院時)は0.46(平均信号強度値 右CFT:45.0±35.1;左CFT:97.7±53.9),55病日目は0.83(平均信号強度値 右CFT:81.8±48.1;左CFT:98.1±34.6),87病日目は1.03(平均信号強度値 右CFT:120.9±49.1;左CFT:117.5±34.2),122病日目(退院時)は0.76(平均信号強度値 右CFT:97.5±34.9;左CFT:127.7±47.3)であり,経過とともに損傷側の信号強度は増加した.FLAIR画像では,右大脳脚から内包後脚にかけて38病日目(入院時)には高信号域を認めなかったが,122病日目(退院時)には高信号域が確認された.
【考察】発症前の右CFTよりも,左CFTで高信号を示したことは,右利き手者では,左CFTが右CFTよりも高信号に描出される傾向がある先行研究と同様の傾向が確認された.損傷半球のCFTの信号強度は,発症以後に増加し,非損傷半球と同程度になった.この間,FLAIR画像では大脳脚で高信号域を認めたことから,ワーラー変性の進行がT2WIの信号変化の要因と考えられた.ワーラー変性が重症であるほど上肢機能は低下するとされるが,本症例はワーラー変性と考えられる信号が亢進する過程でも,上肢機能が向上することを示していると考えられた.
【結論】脳卒中後,損傷半球のCFTにワーラー変性が生じる場合であっても,早期からリハビリテーション治療を進めることは,上肢運動機能の回復に寄与することが示唆された.脳卒中後の症例の損傷半球のCFTが,高信号域として描出されている場合,FLAIR画像でワーラー変性の有無を確認して判断する必要がある.