第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-8] 脳卒中後の患者における食事動作自立に関連する要因の検討

座覇 政成, 濱田 隆広, 佐藤 圭祐, 千知岩 伸匡, 末永 正機 (医療法人ちゅうざん会 ちゅうざん病院臨床教育研究センター)

【はじめに】
食事は,生命を維持するためだけではなく,人々の生活の質との関わりが深い.日常生活活動(ADL)に関わる療法士にとって,食事動作の獲得は大きな目標の一つになりえる.脳卒中後の患者の食事動作は運動麻痺や感覚障害,高次脳機障害,認知症,意欲低下,抑うつ,嚥下障害などといった様々な要因が影響することから,食事動作の獲得に難渋することは少なくない.食事動作に着目した先行研究では栄養や嚥下,姿勢との関連は散見されるが,体幹機能を含めた身体機能に着目したものは少ない.食事動作の自立に必要な要因を検討することは,食事動作自立のためのリハビリテーション介入に役立つと考えた.そこで本研究は,当院回復期リハビリテーション病棟にリハビリテーション目的で入院した脳卒中後のうち,食事動作自立に関連する要因を検討することを目的とした.
【方法】
 本研究は単施設後向き観察研究とした.対象は2021年7月から2022年7月に当院に入院し,退院した脳卒中後の患者である.データの欠損がある者等は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を受け,個人情報の取り扱いに十分な配慮のもと実施した.
 調査項目は,年齢,性別,発症から入院までの日数,入院時National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),入院時Mini-Mental State Examination-Japanese(MMSE-J),入院時臨床体幹機能検査(FACT),入院時Functional Independence Measure(FIM)とした.今回は,退院時FIM食事動作項目が6点以上の者を自立群,5点以下の者を非自立群と定義した.各項目の2群間比較を行ったのちにロジスティック回帰分析を用いて,食事動作自立に関連する要因を検討した.説明変数は食事動作に影響すると考えられる変数を投入した.統計解析はRを使用し,有意水準は5%とした.
【結果】
 研究期間中の脳卒中後の患者は312名であり,除外基準に該当しなかった203名を本研究の対象とした.年齢の平均は74.1±12.6歳,男性120名(59%).女性83名(41%).脳梗塞114名(57%),脳出血80名(39%),くも膜下出血9名(4%)であった.退院時に食事が自立していた群は145名(71%),非自立群は58名(29%)だった.食事動作自立群は非自立群と比較して,年齢が低く(P=0.007),入院時NIHSSが低く(P<0.001),入院時MMSE-JやFACT,FIMが高かった(P<0.001).
 食事動作自立か否かを目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,入院時FACT(P<0.001)および入院時食事FIM(P=0.011)が抽出された.
【考察】
 脳卒中後の患者の入院時の体幹機能の高さは食事動作の自立と関連していた.脳卒中後の患者を対象とした先行研究ではFACTとFIM全項目に関連があることが報告されており,体幹機能はADLにおいて重要な要素の一つである.食事動作には上肢のリーチングに伴う姿勢の安定性が重要であることから体幹機能の高さが抽出された可能性が考えられた.また,体幹機能と嚥下機能の関連も報告されていることから,体幹機能は摂食嚥下の過程を含めて食事動作に影響を与えている可能性がある.FACTは簡便で臨床でよく使用される動作から構成されていることから,使用が勧められる評価の一つであると考えられた.
今回の結果から,入院時にFACTで評価した体幹機能が低い患者ほど,食事動作の獲得に向けて,早期に自助具や環境の設定を考える必要があることが示唆された.