第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-11] Precentral knob近傍の小梗塞により上肢麻痺を呈した症例の作業療法介入と経過

中西 亮太1, 石橋 凜太郎1, 花田 恵介2,3, 市村 幸盛1 (1.医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション部, 2.医療法人錦秀会阪和記念病院リハビリテーション部, 3.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科)

【はじめに】Precentral knob近傍の脳梗塞では,病巣と反対側の手に限局した症状が出現し,弛緩性麻痺が多いが,肢節運動失行や運動失調症を生じることもある.機能的予後は一般的に良好と言われている(平山, 2018)が,リハビリテーション経過について具体的に言及した報告は少ない.今回,Precentral knob近傍の脳梗塞症例を経験したため報告する.
【症例紹介】本報告に同意を得た70歳代両利きの男性.発症前は主に左手を使用し生活していた.現病歴は,起床時に左手指が動きにくいことを自覚し,夕方になっても症状改善しないため,当院を受診した.頭部MRI拡散協調画像では中心前・後回の手の領域に限局した皮質および皮質下に急性期脳梗塞を認め,FLAIR画像では左視床に陳旧性の小梗塞を認めた.以降は保存的に治療された.
【作業療法評価】第2病日,左のBRSが上肢Ⅵ手指Ⅲで,特に母指と示指にのみ弛緩性麻痺があった.上腕二頭筋反射,腕橈骨筋反射は左で亢進していた.Hoffmann反射やTrömner反射は陰性であった.握力は8㎏であった.触覚や関節位置覚は軽度鈍麻しており,「左指はラップを1枚貼られているように感じる」と訴えた.母指探し試験は左固定肢Ⅰ度,右固定肢正常であった.右手の運動機能は問題なかった.MMSEは27点で,注意障害や観念性失行,観念運動性失行を含めた高次脳機能障害は見られなかった.
【作業療法介入と経過】介入初期は,左手指の運動単位の動員改善を目的に,アクリルコーンやコイン,ペグを使用した課題指向型訓練や電気刺激療法を実施し,第10病日のBRSは上肢Ⅵ手指Ⅵ,FMA-UEは64点に向上.指折りや指対立が可能になった.握力は21㎏に向上した.体性感覚障害は消失した.STEFは右99点左80点,BBTは右77個左41個であった.MALはAOU:2.9点,QOM:2.7点であった.OKサインや影絵キツネなどの手指形態模倣がスムーズに行えず逡巡した.到達動作や物品操作になると左上肢運動全体が努力的になり,ふるえが生じた.本例は,「左手で箸を持っただけで震えて落としてしまった」「自販機にお金を投入しようとすると左手がふるえて上手く入れられなかった」「左手指で顔を掻こうとするが手がふるえて思ったところに手がいかない」と述べ,日常生活における左手使用時の易疲労を訴えた.机上に置かれた箸を左手で持とうとすると,左手がふるえて正しい把持に至るまでに難渋した.視覚遮蔽下で箸を持つよう促すと円滑に把持でき,物品操作時のふるえは見なければ軽減する傾向にあった.そのため,左手が見えないようにした状態で,幾何図形を左手で識別したり,ペグや箸などの物品を把持するような遮蔽下での左手操作練習も行った.手指機能の改善に応じて,生活場面を想定した課題指向型練習を追加した.その後,同様の動作を周辺視野もしくは中心視野で行うように段階づけた.症状は第20病日頃になると軽快し,徐々に日常生活で左手を使用できるようになった.
【結果】FMAは66点,STEFは左97点,BBTは左74個となった.箸操作の際の震えは改善し,箸で全量摂取可能となった.過剰出力による易疲労性や拙劣さが改善し,MALはAOU,QOMともに4.8点に向上した.第35病日に自宅退院した.
【考察】本例は中心前・後回の限局病変によって手指にのみ麻痺が生じた.回復過程における左手指の肢位模倣の困難さは運動拙劣症(山鳥,1985)に,左手のふるえはunilateral monoataxia(太田,2005)に相当する症候であったように思われた.Precentral knob近傍の脳梗塞は経過が良好とされるが,より早期からの詳細な評価にもとづいた作業療法が症状の改善に寄与した可能性が考えられた.