第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-12] 依存的で退院後の生活イメージが持てずにいた産褥期脳卒中後の重度左片麻痺事例の報告

古田 真咲, 新藤 志織, 井上 那築 (済生会東神奈川リハビリテーション病院リハビリテーションセラピスト部)

【序論】妊娠・産褥期の脳血管障害は,非妊娠期に比較し発症頻度が高まるとされている(福家2000).しかし,作業療法分野における育児への介入に関する報告は少ない.今回,産褥期の脳出血により重度左片麻痺を呈した若年女性を担当した.経過の中でGoal Attainment Scale(GAS)を活用し,入院期間に退院後の家事育児を見据えた介入につなげることができた.以下に経過を報告する.なお,報告にあたり,書面にて同意を得ている.
【事例紹介】30代女性.出産の一週間後に右被殻出血となり,急性期加療を経て,第63病日目に当院転院.左片麻痺,意識障害,高次脳機能障害を呈していた.入院時は,覚醒水準が低下しており,上肢機能はFugal-Meyer Assesment4/66点,高次脳機能はBehavioural Inattention Test(BIT)92/146点,Catherine Bergego Scale観察6点 自己3点,日常生活動作は,Functional Independence Measure(FIM)で63/126点(運動項目36 認知項目27)であった.起き上がりなど自身で遂行可能なADL場面でも「できない」と述べ,介助を依頼する等,依存的な場面が散見された.
【介入方針】問題点は,食事以外のADLに介助を要する状態であったことと,介助依存的であること,また,まだ母親としての家庭内役割が確立されていない中で退院後の生活の具体的なイメージが持てていないこととした.目標は,能動的にADL自立度が拡大し,退院後,母親としての役割が確立できることとした.介入は,ADL訓練に加えGASを用いた段階的な目標の共有や,家族や他患との交流の場の提供を実施していくこととした.
【経過】GASを活用したことで,「この時はどうやってやればいいですか?」など自ら対応策を求めるなど能動的な言動が増えていった.その結果,徐々に病棟内でのADLを獲得された.183病日目には概ね自立され,退院後の家事育児を見据えた介入に比重を置くことができるようになった.母子の愛着形成のため,定期的に面会ができるようテレビ電話の設定と直接面会できる機会を作った.また,同時期に入院していた妊娠期発症の脳卒中患者と交流が持てるようサポートした.育児動作に関しては,「行いたいけどできる気がしません」と述べていた.動画サイトにて片麻痺患者の育児動作を見てイメージを持っていただくことや,事例の夫に,現在行っている育児動作のリストアップを依頼し,その中で事例が担えそうな動作を抽出し,訓練内で模擬動作訓練を行った.その後,動作場面の動画を撮影して家族へ送ることや,家屋評価時に実動作を確認し家族全体で育児動作のイメージが共有できるようサポートした.237病日目に自宅退院となった.
【結果】退院時のBITは143/146点,FIMは114/126点(運動項目80 認知項目34)となった.育児や家事動作に関しては前向きな言動が聞かれるようになった.調理動作は補助具を使用して見守り,洗濯物たたみなどは自立し,育児動作はミルク作りや離乳食の温めが自立して行えるようになった.事例からは「こういうやり方なら出来るね」「実戦練習あるのみだ」等の発言が聞かれた.
【考察】GASを用いた目標設定は対象の意欲向上に繋がるとされている(上岡2010).本介入においても, GASによる段階的な目標を提示し目標の達成を繰り返すことで能動的になる様子が増え,介助依存的な行動が減りADLが拡大したと思われる.また,片麻痺者の育児に関する動画視聴や,新生児のいる片麻痺患者との関係が出来たこと,入院中に息子との面会を行えたこと,等の介入により,退院後の育児等へ前向きな言動が増えたと推察される.今後の課題として,本事例に加え主介護者となる夫のピアサポートが提供できるような体制づくりが挙げられる.