第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-13] 脳卒中を発症した妊産婦の2事例に対する作業療法介入経過とその中から見えた課題と展望

新藤 志織1, 古田 真咲1, 田原 正俊1,2 (1.済生会東神奈川リハビリテーション病院リハビリテーションセラピスト部, 2.北里大学医療衛生学部)

【はじめに】本邦における妊産婦の脳卒中発症率は分娩10万件あたり10.2件と推計され,近年では脳卒中が妊産婦死亡原因の第2位となっている(島瀬,2021).また,重症例が多い一方で,発症例は少なく,脳卒中を発症した妊産婦への作業療法介入に関する報告は少ない.今回,2例の妊娠期・出産後の脳卒中事例への作業療法介入の経過と退院後に聴取した生活の不安の内容から,退院後のフォローアップに関する課題について考察を交えて報告する.なお,発表に関する同意を2事例より書面で得ている.
【事例紹介】事例A(30歳代):第1子妊娠21週時に右奇異性脳塞栓症を発症後入院加療し,113病日(妊娠38週)に予定帝王切開で児を出産後,146病日に回復期リハビリテーション(回復期)病院に転院した.重度左片麻痺(Brunnstrom stage (BRS): 上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅲ),注意障害等の高次脳機能障害,廃用症候群を認め,移動は車椅子レベル,日常生活動作(ADL)は軽介助であり,既往に妊娠糖尿病,妊娠うつがあった.病前は看護師として勤務し,夫はシステムエンジニアで育児休暇を1年間取得していた.
事例B(30歳代):第3子出産約5ヶ月後に右前頭葉皮質下出血を発症後入院加療し,48病日に回復期病院に転院した.中等度左片麻痺(BRS: 上肢Ⅴ-手指Ⅱ〜Ⅲ-下肢Ⅴ)を認め,歩行・ADL共に自立であり,既往に妊娠糖尿病があった.病前は専業主婦で,夫は自営業,14歳長男と11歳長女と同居していた.
【介入経過】事例A:作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)での目標共有後,麻痺側管理を目的とした上肢機能訓練,ADL自立に向けた動作訓練を中心に実施した.加えて,児と同じ重さの重錘を使用し,抱っこやミルクをあげる練習を行った.また夫に対し,育児に関して事例が手伝うことが出来ることを聴取したところ,ミルク作り,哺乳瓶や食器を洗うことなどが挙がったため,模擬動作練習をした.退院時には育児に関して,「何も分からない状態で退院することが不安」,「健常者の友人にはなかなか相談できない」という訴えがあり,行政の子育て相談窓口の紹介と,同時期に入院していた出産直後に脳出血を発症した他患との関係作りを支援した.上肢の重度運動麻痺が後遺したが,屋内歩行自立で266病日に自宅へ退院し,外来作業療法を週に1度,2ヶ月間利用した.外来時には「日常生活で困ることはあまりない」,「育児に関しては夫の協力の元で参加はできているが一人でできることが少なく,情けなさや無力感を感じることがある」と語った.
事例B:ADOCでの目標共有後,電気刺激療法を併用した上肢機能訓練,母親役割の再獲得に向けた抱っこの練習や調理訓練等の手段的日常生活動作(IADL)訓練を中心に実施した.麻痺側上肢が補助手レベルまで改善し,80病日に自宅へ退院となり,外来作業療法を週に1度,8ヶ月間利用した.外来時には「日常生活や家事,育児は何とか行うことができているが,家族に病前と同じことを求められることに対する辛さとそれを吐露する相手がいないことが不安」と語った.
【考察】今回の2事例を通して,脳卒中を発症した妊産婦に対する作業療法の役割として,基本的なADLに加え退院後の育児環境に合わせたIADLの支援を行い,入院中には想定しきれない育児を含めた退院後生活のフォローを行なっていく必要性が示唆された.また,障害者総合支援法に基づく育児支援は本2事例にとって制度の使用に当たって制限があり,今後の課題として妊産婦の脳卒中患者のコミュニティの構築や障害がある中での育児支援に関する施策の拡充が必要であると考えられる.