第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-3] 新型コロナウイルス感染症後の片麻痺を患う透析患者に対するADL向上を目指した介入

大坂 隆介1,2, 金子 翔拓3 (1.札幌朗愛会病院リハビリテーション科, 2.札幌医科大学大学院保健医療学研究科博士課程後期, 3.北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科(作業療法学専攻))

【緒言】人工透析(以下:透析)患者が新型コロナウイルス感染症(以下:COVID-19)に罹患すると,透析非実施者と比較して,ADL低下など影響を受けやすいとされる.今回,COVID-19罹患後の長期臥床によって廃用性筋力低下を呈した透析患者のリハビリテーション(以下:リハ)にてリハ実施頻度を高めることでADLが向上したため,以下に報告する.なお,本人および近親者より本学会発表にあたっての同意を得ている.
【事例紹介】60歳代前半の女性で,慢性腎不全のために透析継続目的にてX -2年より当院に入院していた.MMT体幹3,非麻痺側下肢3,麻痺側下肢2,既往の脳梗塞にて右片麻痺(上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅴ)と軽度運動性失語を呈すが,口頭コミュニケーション可能である(MMSE25点).ADL車椅子介助レベルであり(m-FIM25点;移乗3点),起居移乗動作に1人介助を要するが,日常的に車椅子座位で食事摂取していた.リハは身体機能維持目的で,透析後の倦怠感から非透析日のみOT単科で週3回行っていた.X年Y月Z-20日,COVID-19への罹患が判明したため,治療目的にて他院へ転院し,寛解後のZ日に当院に帰院した.
【作業療法評価】ADL低下(m-FIM18点;移乗1点)し,MMT体幹2,非麻痺側下肢2,麻痺側下肢2~1,COVID-19の後遺症にて全身倦怠感を認めた.左脊柱起立筋群(腰部)の過緊張から,座位時に体幹が過伸展して左後方へ姿勢を崩し,端座位保持困難で,車椅子乗車も移乗の介助量増大と耐久性低下から日常生活での実施が不可となり,食事もベッド上ギャッジアップでの摂取となった.本人の希望は,「車椅子に乗って食事がしたい」であった.
【作業療法経過】COVID-19寛解後の透析患者のリハ実施頻度を高めることはADL向上の上で有効とされるが,本症例は透析後の倦怠感が強く,非透析日の午前・午後それぞれのリハ介入で頻度を増やし, Spo2や主観的疲労度(修正BorgScale)を都度確認して負荷量調整した.まずベッド上でのブリッジやSLRなど下肢筋トレから抗重力筋強化を図った.体幹は左腰背部が優位に動作するため,背臥位にて両側の股・膝関節90°屈曲位をセラピストが保持し,骨盤lateral tiltを促した.左腰背部の固定性から骨盤が動作しなかったが,セラピストの徒手誘導にて徐々に左右交互に骨盤側方傾斜できるようになり,反復訓練の中で自力遂行可能となった.左脊柱起立筋群過緊張の改善から端座位見守りとなり,屈曲相を意識した立ち上がり訓練から脊柱起立筋群を更に伸張させた.移乗時のステップを意識して平行棒内足踏み訓練も行い,非麻痺側下肢挙上時に体幹が伸展方向に崩れたが,徐々に体幹安定性が増した.
【結果】Z+28日目,MMT体幹3,非麻痺側下肢3,麻痺側下肢2に向上した.端座位保持見守りとなり,そこから介助者が前方から立ち上がり屈曲相を誘導すると体幹が追従し,伸展相を経て立位に姿勢変換可能となった.膝折れ防止のために介助者による麻痺側膝関節のロックを要するが,体幹が崩れずに非麻痺側下肢でステップ可能となり,1人介助での移乗動作,耐久性も向上して車椅子座位での食事動作を獲得した(m-FIM25点;移乗3点).
【考察】維持期片麻痺患者は,活動量の低下で麻痺側のみでなく非麻痺側の筋力低下や関節可動域制限が生じるとされ,廃用症候群のリハでは,低負荷で頻回の介入が推奨されている.本症例も廃用性筋力低下を認めたが,頻回な介入が筋力を向上させ,移乗動作および車椅子座位での食事動作獲得に繋がったと考える.COVID-19寛解後の透析患者のリハ実施頻度を高めることは,廃用症候群を改善する観点からも有効であることを示唆する結果となった.