第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-5] 重度左片麻痺患者に対するADL獲得に向けた関わり

有働 克也1, 松原 麻子2, 齊藤 雄一郎1 (1.IMS(イムス)グループ 医療法人社団 イムス札幌内科リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.広島市立リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【はじめに】作業療法において,認知-知覚障害のある患者のADL遂行の困難さを評価する必要がある.一方で,ADL評価は机上評価と観察評価を分けて行われることが多い現状である.Árnadóttir,Gillenらは神経行動学的障害がADLの自立に及ぼす影響を評価可能な唯一の方法として,A-ONEの有用性を述べている.今回,右被殻出血による重度左片麻痺を呈し,自宅退院を希望する患者に対し,日本版A-ONEを用いた評価・介入をした結果,ADL自立での自宅退院となった.本報告の目的は,A-ONEを使用し機能障害の特性を踏まえたADLへの支援の有用性を検討する事である.尚,本報告に際し本人に書面にて説明し同意を得た.
【事例紹介】A氏は30歳代の男性である.X年Y-2月自宅で体動困難となっている所を発見されB病院緊急搬送,右被殻出血と診断される.保存加療後リハビリ目的にてX年Y月Z日当院入院となる.病前はADL・IADL自立していた.
【作業療法評価】脳画像から,重度左上肢麻痺や運動時の筋緊張コントロール,運動制御や空間認知の影響が予測された.A-ONE評価項目5領域のうち,更衣,整容と衛生,移乗と移動項目において全般的に言語的介助や身体的介助が必要であった.トイレ動作は,Brs上肢Ⅱ-手指Ⅱ-下肢Ⅳと左側の筋緊張異常の影響に加え,手すりとの適切な位置関係がとれず立位保持の不安定さや便器の中心に座れない空間関係の障害を認めた.また,左側のズボンを上げ切らない半側身体無視や非効率的な動作による組織化順序立ての障害を認めた.認知機能はMMSE29点で,洞察力の低下や注意の散漫が認められた.介入前の粗点は33,logits-1.21,標準誤差0.45であった.OTでは起居・移乗・立位を安全に行え,トイレ動作の自立を短期目標として合意し介入した.
【介入方針】運動時の筋緊張コントロールや制御,空間認知の問題,上肢は重度麻痺により補助手レベルに留まる可能性が高かった.年齢も若くトイレに対する羞恥心が強いこともあり,起居動作自立・立位の安定を図り短期間でのトイレ動作自立を目指すこととした.
【経過】端坐位保持は可能であり,重錘を使用して手掌・足底からの感覚入力を強化し体幹への波及と麻痺側への意識付けや安定した立位の獲得に向け,難易度調整しながら股関節・体幹へのアプローチを行った.また,半側身体無視や空間関係の障害の改善に向け,麻痺側のon elbowや麻痺側on elbow下での非麻痺側の活動を促し,麻痺側中枢部の安定性強化,感覚入力,非麻痺側の固定性軽減,体幹活動賦活,柔軟性向上を図った.組織化順序立ての改善を目的にベッド上で起居動作練習と振り返りの機会を設けた.
【結果】Brs上肢Ⅲ-手指Ⅲ-下肢Ⅴへ改善し,注意の散漫さは残存したが,半側身体無視,空間関係,組織化順序立てのADLへの影響は認めず,A-ONE評価項目起居・移乗を除く領域においても自立となった.粗点は60,logits6.99,標準誤差1.89と有意な改善を認め,起居・移乗自立を16日,トイレ自立を35日で達成した.
【考察】東らは「生活障害の情報と脳画像や各種機能障害評価の情報をつなぎ合わせて支援をする際にA-ONEは有効である.また,生活障害の原因となる機能障害が明らかとなれば,ADL支援をする際の糸口にもなる.」と述べている.今回,A-ONEを使用し日常生活動作の評価と認知-知覚の評価を同時にリーズニング,生活障害の原因となる機能障害を明確化し,機能障害の特性を踏まえ介入をしたことで,ADL能力の改善に繋がったと考える.以上の事から,A-ONEを使用し機能障害の特性を踏まえた評価によるADLの支援への有用性が示唆された.