第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-6] 脳卒中後に右片麻痺,高次脳機能障害を呈した症例に対するADOCとCI療法を用いた支援

高木 克実 (医療法人桂名会 瀬尾記念慶友病院リハビリテーション課)

【はじめに】今回,右片麻痺,高次脳機能障害を呈し,右上肢の不使用を認めた症例に対して,自宅退院に向け作業選択意思決定支援ソフトPaper版(ADOC)を用いて目標共有し,CI療法の概念に基づき課題指向型訓練(TOT),Transfer Package(TP)を行った.その結果,ADL,IADL能力が改善し,自宅退院に至ったので報告する.本報告は症例から同意を得ている.
【症例紹介】50歳代男性.利き手は右手.左内包梗塞発症後,第29病日に当院回復期リハ病棟に入院.病前はアパートで独居.派遣社員として働いていたが発症6ヶ月前から生活保護を受給していた.
【入院時評価】Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA)28点.ROM:右肩関節屈曲・外転90°肘関節伸展-15°.表在覚に中程度鈍麻あり.簡易上肢機能検査(STEF):左88点,右は実施困難.Motor Activity Log(MAL):使用頻度(AOU),動作の質(QOM)とも0点.右上肢は共同運動パターンが見られており,動作時の筋緊張亢進に伴う痛みにより学習性不使用を認めた.高次脳機能はMMSE24点,WAIS-Ⅲ:言語性IQ67・動作性IQ82・全検査IQ71,TMT-J:A,Bとも異常であり,全般的な知的機能,注意機能の低下を認めた.FIM101点.病棟ADLは洗体,爪切りが一部介助.その他は独歩で自立していた.症例は自宅退院を希望しており,ADOCにて①右手を使って身の回りの事が行える②家事(洗濯,買い物,調理)が1人で行える,を目標共有した(ともに満足度1/5).
【方法】共有した目標に対し,右上肢の回復に応じた達成可能なTOT(Shaping課題,ADL,IADL訓練)及びTOTで獲得したADL,IADL能力が病棟生活に般化するようTPを実施.TPでは行動契約した活動の成果を症例がチェック表に記入し,OTが進捗状況を確認して問題解決方法を検討した.
【経過】・入院日~3週目(右上肢・手指の分離運動を促した時期)TOTで上肢の共同運動パターンから逸脱した運動及び手指の随意的な伸展を促すため,座位でブロックを把持しての下方リーチを実施した.
・入院4~7週目(右上肢の改善に合わせたADL訓練を行った時期)TOTでは右手での食器把持,右手を補助的に使用しての歯磨き,自助具使用での爪切り,ループ付きタオルでの洗体を実施.TPでは右手使用での食事,整容,洗体を行動契約した結果,入院7週目に病棟ADLが自立した.
・入院8~12週目(自宅退院に向けIADL訓練を行った時期)TOTでは訓練室での模擬的な洗濯,買い物,調理の練習,洗濯室での洗濯.院内での買い物,台所での調理,外出しての買い物を実施.TPでは院内での買い物,洗濯を行動契約した.
【結果】FMA49点.ROM:右肩関節屈曲140°外転130°肘関節伸展-15°.著明な感覚鈍麻なし.STEF:右8点・左87点,MAL:AOU1.23点・QOM1.15点.MMSE26点,TMT-J:A,Bとも異常.FIM121点.院内ADL・IADLは自立,調理,外出しての買い物は見守り下で安全に行えた.ADOCで共有した目標①②とも満足度4/5であった.退院後の食事は配食サービスの併用,掃除は訪問介護の利用を提案し,第107病日に自宅退院となった.
【考察】麻痺手の不使用は日々の生活の中で手をうまく使えないという失敗体験による報酬誤差から学習性無力感が形成される(川口2021).また高次脳機能障害者は認知,意思,判断,運動企画に障害があるため自分自身の状態に気づきにくく,動作の学習,修正に難渋する(祐野2010).今回ADOCで共有した目標に対し,TOTで右上肢の回復に応じた難易度調整や自助具の選定を行うことで成功体験が得られ,能動的な訓練への参加を促進できた.また,より実生活に近い環境で積極的にTOT,TPを行い,さらにTPの達成度をチェック表で確認し,課題点に対しての的確なfeedbackが行えたことで,右手の使用場面,使用方法の気づきに繋がった.その結果,ADL,IADL能力が改善し,自宅退院に至ったと考えられる.