第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-10] 段階付けた課題設定が奏功し教育者として理容師への復職に至った若年脳卒中事例

瀬尾 諒, 梅本 文登, 松本 憲作, 時岡 愛, 奥中 美早 (淀川平成病院リハビリテーション部)

【はじめに】本邦の脳卒中患者の復職率は45%と報告され,復職を阻害する要因として,専門職や重度片麻痺,高次脳機能障害の合併が挙げられている.又,患者自身が障害受容をできていることも復職を決定する上で重要である(佐伯ら 2019).今回,回復期病棟で右被殻出血により重度運動麻痺を呈した若年脳卒中事例を担当した.「家族の為に職場復帰がしたい」という思いを実現させる為,入院から外来リハビリテーション(以下,リハ)を含めた約1年間作業療法介入を実施した.結果,従業員や家族の支援を受け教育者として復職に至った.その支援の経過を報告する.尚,事例には書面にて説明を行い同意を得た.
【事例紹介】40代男性,左利き,神経質で努力家であった.病前ADL,IADLは自立,筋トレや野外活動など多趣味で活発的であった.発症前は繁華街で理容室の店長兼理容師として働き,妻と娘の3人で同居していた.実家で両親が理容業を営んでいる.20代の頃に自律神経失調症を発症した.現病歴は右被殻出血により他院へ救急搬送され,翌日に開頭血腫除去術を施行し,第25病日に当院回復期病棟へ入院した.
【入院時評価】事例との面接で家族を守りたいという強い思いから目標に復職を挙げた.感覚機能は中等度鈍麻,運動機能はFMA上肢運動項目14点,ARAT3点,BBT0個,STEF左0点と機能低下を認めた.MALは,AOU平均0.25点,QOM平均0.17点と麻痺手を使用することに困難さを認めた.基本動作は軽介助,FIMは63点(運動34点,認知29点)であった.病識として,「左手を使えない」「働けない」など悲観的な発言を多く認めた.
【介入方針】在宅復帰と復職を目標とし,身体機能や高次脳機能の変化に合わせた段階的な生活範囲の拡大を行い,多職種で気づきの機会の提供を行う.退院後は,外来リハで入院中に抽出された生活や復職の課題に対して対応を行う.
【経過】(入院リハ:5ヶ月)麻痺側上肢機能練習と電気刺激療法を併用して実施した.加えて,面接で挙がった作業を段階付け,代償動作の程度に合わせた難易度の自主訓練を提供した.又,自主訓練場面を動画撮影し自己の成長を内省する機会を作成した.入院中に社会的,経済的に不安定となり抑うつ状態が続いた.生活リズムについて指導を行い,訓練毎に意欲を引き出す課題や興味のある活動を提供した.退院前に他患の毛染めを理容師として助言するという方法で他OTRと合同OTを実施した.その後,理容動作の確認で筆者の側頭部をバリカンで刈る作業を実施した.これら作業時の課題を共有し,第144病日に実家へ退院した.
(外来リハ:10ヶ月)外来リハでは日常生活や業務面で生じた課題の共有と解決手段を提案した.退院直後,実家で理容師の補助者として従事した.退院後3ヶ月目にリモートで職場の教育指導を開始,7ヶ月目で教育者として対面で週2日勤務から職場復帰し,10ヶ月目で週5日勤務開始となった.
【退院時評価】運動機能はFMA上肢運動項目59点,ARAT54点,BBT28個,STEF左68点と機能向上を認めた.MALはAOU平均3.92点,QOM平均3.63点と使用頻度の増加と質の向上を認めた.基本動作は自立,FIMは125点(運動90点,認知35点),屋外移動は独歩となった.
【考察】本事例が復職を促進できた要因として,若年で職場の人間関係も良好であったことと,経営や教育業務に携わっていたことが挙げられる.しかし,阻害要因として重度運動麻痺があり,抑うつ状態が続いていた.この為,段階付けた課題設定により意欲を保ち続け,復職を見据えた実動作練習を入院中に実施したことで,退院後も外来リハで早期から復職準備を開始し,最終的に教育者として理容師の復職まで至ったと考える.