[PA-8-12] 脳卒中後肩関節痛に対して有酸素運動が奏効した一症例
【緒言】
脳卒中後肩関節痛はADLやQOLの低下に加えて,作業療法介入の阻害因子となる.また,その発症には,痛覚伝達系の可塑的変化により生じる痛覚変調性疼痛の関与が指摘されているが,有効な介入手段は未だ明らかではない.そこで今回,麻痺手の使用頻度の向上に伴い肩関節痛を呈した脳卒中患者に対して,有酸素運動による活動量の増加に伴い緩解した症例について報告する.
【症例紹介】
症例は左被殻出血により右上下肢麻痺を呈した40代男性である.入院時Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA-U)は31点,Action Research Arm Test(ARAT)は11点で中等度の運動麻痺・上肢機能障害を認めた.右上肢に疼痛は認められなかったが,全体に異常感覚(痺れ)を認め,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)上肢触覚・位置覚は2で,中等度の感覚障害を認めた.Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU),Quality of Movement(QOM)は共に0点であった.
【治療経過】
初めに症例と目標を設定するためAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)を用いて,日常生活や職場復帰に必要な「箸操作」と「書字動作」を目標と設定し,上肢機能練習や課題指向型練習を中心に4週間介入した.結果,SIASの上肢触覚・位置覚の改善は認めなかったが,FMA-Uは48点,ARATは29点,MALのAOUは1.76点,QOMは1.61点へ向上した.しかし入院7週後,動作時および夜間にNumerical Rating Scale(NRS)4の右肩関節痛が出現し,夜間に中途覚醒があった.姿勢評価にて,仰臥位における肩関節アライメント異常が著明であったため,夜間のポジショニング指導を行なった.入院10週後,NRS5で夜間を中心に右肩関節痛は持続し,不眠の不安感が強くなっていた.そこで,自身の身体感覚同定のため,右肩関節痛のセルフモニタリングを開始した.同時に上肢自主練習としてワイピングを提案した.入院11週後,新型コロナウイルスによる2週間の隔離期間があり,身体活動量は低下した.入院13週後,夜間の肩関節痛はNRS7で増悪し,アテネ不眠尺度(AIS)は11点で睡眠障害を認めた.そこで,作業療法介入やADL以外での身体活動量向上を目的に,日中の歩行練習や就寝前のスクワット運動を指導した.
【結果】
入院18週後,FMA-Uは47点,ARATは36点で上肢機能の改善を認めた.SIAS上肢触覚・位置覚ともに2で変化は見られなかった.MALのAOUは3.69点,QOMは3.53点で,日常生活での使用頻度や動作の質の改善を認め,箸操作や書字動作が可能となった.さらに,日中の身体活動量は増加し,夜間の右肩関節痛はNRS2,AISは6点に改善し,夜間の中途覚醒の頻度が減少した.
【考察】
今回,麻痺手の使用頻度の向上に伴い肩関節痛が出現した脳卒中患者に対して,歩行を中心とした有酸素運動を実施したことで身体活動量は増加し,疼痛や睡眠障害の改善を認めた.有酸素運動は運動部から離れた遠隔部でも鎮痛効果があると報告されており(Niwa,2022),本症例も有痛部である上肢だけでなく,下肢を含めた有酸素運動によって鎮痛効果が得られたと考える.
【倫理的配慮】
今回の発表にあたって本人に対して口頭および書面で同意を得た.
脳卒中後肩関節痛はADLやQOLの低下に加えて,作業療法介入の阻害因子となる.また,その発症には,痛覚伝達系の可塑的変化により生じる痛覚変調性疼痛の関与が指摘されているが,有効な介入手段は未だ明らかではない.そこで今回,麻痺手の使用頻度の向上に伴い肩関節痛を呈した脳卒中患者に対して,有酸素運動による活動量の増加に伴い緩解した症例について報告する.
【症例紹介】
症例は左被殻出血により右上下肢麻痺を呈した40代男性である.入院時Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA-U)は31点,Action Research Arm Test(ARAT)は11点で中等度の運動麻痺・上肢機能障害を認めた.右上肢に疼痛は認められなかったが,全体に異常感覚(痺れ)を認め,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)上肢触覚・位置覚は2で,中等度の感覚障害を認めた.Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU),Quality of Movement(QOM)は共に0点であった.
【治療経過】
初めに症例と目標を設定するためAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)を用いて,日常生活や職場復帰に必要な「箸操作」と「書字動作」を目標と設定し,上肢機能練習や課題指向型練習を中心に4週間介入した.結果,SIASの上肢触覚・位置覚の改善は認めなかったが,FMA-Uは48点,ARATは29点,MALのAOUは1.76点,QOMは1.61点へ向上した.しかし入院7週後,動作時および夜間にNumerical Rating Scale(NRS)4の右肩関節痛が出現し,夜間に中途覚醒があった.姿勢評価にて,仰臥位における肩関節アライメント異常が著明であったため,夜間のポジショニング指導を行なった.入院10週後,NRS5で夜間を中心に右肩関節痛は持続し,不眠の不安感が強くなっていた.そこで,自身の身体感覚同定のため,右肩関節痛のセルフモニタリングを開始した.同時に上肢自主練習としてワイピングを提案した.入院11週後,新型コロナウイルスによる2週間の隔離期間があり,身体活動量は低下した.入院13週後,夜間の肩関節痛はNRS7で増悪し,アテネ不眠尺度(AIS)は11点で睡眠障害を認めた.そこで,作業療法介入やADL以外での身体活動量向上を目的に,日中の歩行練習や就寝前のスクワット運動を指導した.
【結果】
入院18週後,FMA-Uは47点,ARATは36点で上肢機能の改善を認めた.SIAS上肢触覚・位置覚ともに2で変化は見られなかった.MALのAOUは3.69点,QOMは3.53点で,日常生活での使用頻度や動作の質の改善を認め,箸操作や書字動作が可能となった.さらに,日中の身体活動量は増加し,夜間の右肩関節痛はNRS2,AISは6点に改善し,夜間の中途覚醒の頻度が減少した.
【考察】
今回,麻痺手の使用頻度の向上に伴い肩関節痛が出現した脳卒中患者に対して,歩行を中心とした有酸素運動を実施したことで身体活動量は増加し,疼痛や睡眠障害の改善を認めた.有酸素運動は運動部から離れた遠隔部でも鎮痛効果があると報告されており(Niwa,2022),本症例も有痛部である上肢だけでなく,下肢を含めた有酸素運動によって鎮痛効果が得られたと考える.
【倫理的配慮】
今回の発表にあたって本人に対して口頭および書面で同意を得た.