第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-17] 生活期脳卒中患者に対する外来でのバーチャルリアリティとHANDS protocolを用いた複合的アプローチ:症例報告

阿瀬 寛幸1,2, 吉澤 卓馬1, 袴田 裕未1, 藤原 俊之2 (1.順天堂大学医学部附属順天堂医院, 2.順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】脳卒中上肢機能に対するリハビリテーションでは,量的依存性,課題指向性が重要な要素であるとされる一方,生活期においては,これらを変化させるトリガーが少なく,支援が必要となることがある.今回,発症後5年が経過した脳梗塞の症例に対し,バーチャルリアリティ(以下VR)と外来Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic System protocol(以下HANDS-out)を用いた複合的アプローチにより日常生活における麻痺手使用頻度と使用の質改善を認めたため,考察を加え,以下に報告する.
【方法】作業療法介入を中心とした単一症例報告で,介入期間は2ヶ月間であった.外来作業療法を週1回実施し,前半1ヶ月間は在宅でのVRを用いたホームプログラムの支援を行い,後半の1ヶ月は在宅でのHANDS-outの支援を行なった.上肢機能の評価としてFugl-Meyer Assessment(以下FMA),麻痺手使用頻度と使用の質の評価としてMotor Activity Log(以下MAL)を開始時と終了時に実施した.なお,本発表に際し,最大限の倫理的配慮を行い,御本人の同意を得た.
【結果】症例は60代男性,5年前に右放線冠の脳梗塞を発症した.自営業であったが退職しており,「片手で身の回りのことはできるが,再び両手で早くできるようになりたい」と話し,食事時に茶碗を持つこと,ボタンの着脱を両手で行うこと,グラスを右手で持って酒を飲むこと,荷物を持ったまま玄関のカギを開けることなどを希望した.SIAS運動機能は上肢3-1C,下肢4-4-3で,Barthel Indexは100点であった.作業療法開始時FMA52/66点,MAL Amount of Use(以下AoU)平均2.3であった.左手のリーチに伴い手指の屈曲筋群の筋緊張が亢進し,手指開排時に総指伸筋の筋収縮は触知できるものの,過剰な努力により,手指はさらに強い屈曲を認めた.しかし,左上肢を下垂した位置で肩関節や肘関節の脱力をイメージすることにより,わずかではあるが,手指の伸展運動が可能であった.VRを用いたホームプログラムでは,左上肢下垂位において,上肢脱力後にゆっくりと手指を開くことをイメージしながら運動することを提案した.4週後には,机上でのリーチを伴いながら手指の伸展がわずかに可能となった.VR終了時FMA60/66点,MAL AoU2.9点であった.次に,日常生活動作内でリーチを伴った場面で左手指の開排が得られやすくなるようHANDS-outを4週間施行した.終了時FMA62/66点,MAL AoU4.0点となり,当初希望していた茶碗の把持やボタン操作などが可能となった.
【考察】本症例は生活期において潜在的に手指の伸展筋活動を認めていたものの,上肢近位筋の過剰努力や麻痺手使用時のスピードや力の調整などが困難で,手指の伸展筋活動を動作に活かせていなかったことが考えられた.VRを用いたホームプログラムによって麻痺手機能改善が図れた要因の1つとして,手指の動作が行いやすい姿位で,ゆっくりと努力を伴わずに運動を繰り返し行うことができたことが考えられた.VRは機器も軽量で設定も簡便であるため,在宅での対象者のみでの使用も可能であり,わずかな運動を視覚や聴覚的なフィードバックにより強化する機能を有する.さらに,後半のHANDS-outによって,「現実使用での場面」に置き換えて,動作をアシストするに至ったことが考えられた.これは,VRを用いた練習により可能となった動作の強さやスピードの調整を,日常生活場面で活かせるよう課題志向的に支援できたと考えられた.本症例を通じて,生活期においても,外来でのVRやHANDS-outを用いたホームプログラムを中心とした集中的な支援により,麻痺手機能と日常生活使用頻度の改善が図れる可能性があることが示唆された.