第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-18] 回復期リハビリテーションにおける40代女性に対し,MTDLPにて自己効力感の改善を図り,主婦としての役割を獲得した症例について

長谷川 貫太1, 村仲 隼一郎2 (1.ふれあい町田ホスピタルリハビリテーション科, 2.茅ヶ崎リハビリテーション専門学校作業療法学科)

1.報告の目的 今回,脳梗塞による片麻痺によって,上肢・手指機能の低下による巧緻性障害が著明であり,自己効力感が低下していた40代の事例に対し,MTDLPを用いて介入した.その結果,主婦としての役割の1つである「お弁当を作る」という生活行為を獲得した為,報告する.
2.事例紹介 40代前半の女性で,診断は左前頭葉梗塞による右片麻痺である.既往歴は,SLE,脳梗塞であり,SLEは寛解後も定期的に通院している.介護保険は未申請,夫,娘2人との4人暮らしである.A氏の希望として,「娘の部活の応援に行きたい.包丁が使えず,鋏でも良いから右手で料理が出来る様になり,お弁当を作りたい」と主婦の役割としての訴えが聞かれた.なお,本事例報告に対する目的を明確に説明し,書面にて同意を得ている.
3.作業療法評価  心身機能は,BRSがⅣ-Ⅴ-Ⅴであり,また,「私には出来ません.自信がない.」と活動に対し悲観的になる等,自己効力感の低下が見られた.活動と参加は,FIMは126点,FAIは31点だが,入院により困難となっていた.ADL動作は非麻痺側上肢等の代償により,支障のないレベルであった.環境因子の制限因子は,団地の4階在住であり,エレベーターがないということである.初期評価の時点での,合意した目標は「朝4時に起きて週5回,鋏か包丁を使用し,娘のお弁当を作る.」であり,実行度・満足度共に0であった.
4.目標と介入の基本方針 身体機能の改善を図りつつ,事例の作業(料理)にも焦点を当て,成功体験を通して自己効力感の改善を図る.
5.作業療法計画 基本的訓練としては,上肢機能訓練や感覚入力を行い,身体機能の改善から可能な動作の拡大や改善を図り,自己効力感の向上を図った.応用訓練としては,病棟ADLの自立,また,トランプや切り絵等の受け入れ良好な活動を用い,成功体験により活動と参加への拡大を図った.社会適応訓練としては,段階付けた調理動作訓練を中心に介入した.また,介入の際には,本人及びキーパーソンに対し,MTDLPマネジメントシートの内容を共有することによって,役割の再確認,調理動作の獲得による自己効力感の向上を図った.
6.介入経過 介入初期は,心身機能としては感覚鈍麻・巧緻性低下があり,整容動作等のADL動作に対して困難さを感じており,失敗体験により自己効力感も低下していた.介入中期は,視覚代償の定着等から,調理動作時の麻痺側上肢での包丁使用等,麻痺側上肢の積極的使用が得られていた.介入後期は,手指の感覚は軽度鈍麻まで改善し,末梢操作時も概ねリスクなく経過した.調理において,包丁の他に鍋の操作等も麻痺側上肢にて行う場面が出現していた.
7.結果 BRSは,Ⅵ‐Ⅵ‐Ⅵまで改善した.
調理動作では,包丁使用時に中枢での固定は要するが,怪我や火傷のリスクなく遂行可能であった. 
合意目標に対する実行度・満足度は共に9まで向上し,「退院後も出来る気がすると感じるようになった.」と自己効力感が上がったことも自覚している.
リハ介入時に家屋状況についての話題を中心にしていたこともあり,「妻・母としての役割を忘れずに入院生活を送れた.退院後は,夫や娘と役割分担することにした」と,情報共有したことで,環境調整が出来ていた.
8.考察 生活習慣の改善や自己効力感の向上の要因は,MTDLPを用いたことにより,ご本人・ご家族間での自宅退院に向けた話し合いが増加し,課題が明確になったことが大きな要因であると考える.MTDLPのシート類を用い,担当間・ご本人との明確な目標の共有,ご家族からの協力が得られた場合,自己効力感の改善や役割の獲得を図れる可能性が示唆される.