[PA-8-4] 路上評価で問題が顕在化した脳血管障害事例の検討
【はじめに】脳損傷者における自動車運転評価のゴールドスタンダードは路上での実車評価(路上評価)を含む包括的な運転評価といわれている.しかし,国内では各都道府県の公安委員会によって路上評価の実施を許可していない場合や,構内での実車評価(構内評価)のみ許可する場合があり,路上評価が必ずしも行える状況にない.また,構内評価のみの場合,設定課題に限りが生じ十分な評価を行うことができない恐れがある.本発表の目的は,構内評価では問題が少なかったものの,路上評価において問題が顕在化し,運転再開に至らなかった脳血管障害事例を後方視的に検討し,路上評価の意義について再考することである.
【方法】対象事例は,以下の基準で選択した.2020年10月から2022年11月の期間に所属機関で,構内評価で行う課題を実施することが可能な院内の教習コース(院内)でStandardized On-road Assessment for Driving(SOAD)で実車評価を実施した脳血管障害者64名(合格40名,不合格24名)を後方視的に調査した.選択基準は路上評価を実施し不合格になった群で,院内のSOADの結果で危険行為に関する4項目以外の平均得点が一番高い事例とした.なお,対象者には本研究について書面及び口頭にて説明し同意を得ている.院内の実車評価は,作業療法士がSOADを使用して実施した.SOADは澤田らによって開発された信頼性と妥当性が担保された実車評価である(sawada,2021).項目数は40項目あり,20分間の実車評価を2回実施し,問題行動が両方みられた場合0,どちらか一方だけみられた場合1,どちらもみられなかった場合2の3段階で評価をする.さらに信号無視や障害物の接触などの危険行為項目は計4項目あり,2回の評価中の行為の有無を確認した.その後の路上評価は,所属機関と連携している自動車教習所で行われ,教習所独自の15項目の評価票を使用し,教習指導員が評価した.事例の検討方法は,神経心理学的検査,ドライビングシミュレータ評価(DS評価),院内評価のSOAD,路上評価での教習指導員の評価を包括的に検討した.
【結果】事例は50歳代の男性.疾患名は脳出血で軽度左片麻痺を認めたが,移動は独歩でADLは全て自立していた.神経心理学的検査の結果はTrail Making Test-partBのみカットオフを下回り,Stroke Driver Screening Assessment Japanese versionは運転合格予測式が選択された.DS評価はHondaセーフティナビを使用し,運転反応課題(単純反応課題/選択反応課題)と危険予測体験(中級2)を実施した.単純反応課題は同年代と比較して低値はみられなかったが,選択反応課題で誤反応を多く認め,選択性注意機能や処理速度の低下が伺えた.危険予測体験では黄色信号で無理に進行し,事故が1回確認された.院内評価のSOADは走行位置3項目,安全確認3項目を含む8項目で減点を認め,危険項目は障害物の接触が1度確認された.その後の院内実車練習では走行位置と安全確認行動の改善を認めたが,路上評価では走行位置や安全確認に関連する項目で指摘され運転再開には至らなかった.
【考察】院内の運転では外的刺激が少なく自身の運転行動に集中しやすい環境にあり,危険な運転行動の改善が認められた.しかし選択性注意機能や処理速度の低下により,路上は交差点や駐車車両など注意を向ける対象が多く情報過多となりやすい環境にあったと考える.そのため,本事例のように選択性注意機能や処理速度が低下している場合は危険な運転行動が顕在化する可能性があるため構内評価のみではなく路上評価も併用して行う必要があると考える.
【方法】対象事例は,以下の基準で選択した.2020年10月から2022年11月の期間に所属機関で,構内評価で行う課題を実施することが可能な院内の教習コース(院内)でStandardized On-road Assessment for Driving(SOAD)で実車評価を実施した脳血管障害者64名(合格40名,不合格24名)を後方視的に調査した.選択基準は路上評価を実施し不合格になった群で,院内のSOADの結果で危険行為に関する4項目以外の平均得点が一番高い事例とした.なお,対象者には本研究について書面及び口頭にて説明し同意を得ている.院内の実車評価は,作業療法士がSOADを使用して実施した.SOADは澤田らによって開発された信頼性と妥当性が担保された実車評価である(sawada,2021).項目数は40項目あり,20分間の実車評価を2回実施し,問題行動が両方みられた場合0,どちらか一方だけみられた場合1,どちらもみられなかった場合2の3段階で評価をする.さらに信号無視や障害物の接触などの危険行為項目は計4項目あり,2回の評価中の行為の有無を確認した.その後の路上評価は,所属機関と連携している自動車教習所で行われ,教習所独自の15項目の評価票を使用し,教習指導員が評価した.事例の検討方法は,神経心理学的検査,ドライビングシミュレータ評価(DS評価),院内評価のSOAD,路上評価での教習指導員の評価を包括的に検討した.
【結果】事例は50歳代の男性.疾患名は脳出血で軽度左片麻痺を認めたが,移動は独歩でADLは全て自立していた.神経心理学的検査の結果はTrail Making Test-partBのみカットオフを下回り,Stroke Driver Screening Assessment Japanese versionは運転合格予測式が選択された.DS評価はHondaセーフティナビを使用し,運転反応課題(単純反応課題/選択反応課題)と危険予測体験(中級2)を実施した.単純反応課題は同年代と比較して低値はみられなかったが,選択反応課題で誤反応を多く認め,選択性注意機能や処理速度の低下が伺えた.危険予測体験では黄色信号で無理に進行し,事故が1回確認された.院内評価のSOADは走行位置3項目,安全確認3項目を含む8項目で減点を認め,危険項目は障害物の接触が1度確認された.その後の院内実車練習では走行位置と安全確認行動の改善を認めたが,路上評価では走行位置や安全確認に関連する項目で指摘され運転再開には至らなかった.
【考察】院内の運転では外的刺激が少なく自身の運転行動に集中しやすい環境にあり,危険な運転行動の改善が認められた.しかし選択性注意機能や処理速度の低下により,路上は交差点や駐車車両など注意を向ける対象が多く情報過多となりやすい環境にあったと考える.そのため,本事例のように選択性注意機能や処理速度が低下している場合は危険な運転行動が顕在化する可能性があるため構内評価のみではなく路上評価も併用して行う必要があると考える.