第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-5] 重度脳卒中患者における上肢機能練習時間が運動麻痺の改善に与える影響

岡田 康佑, 福田 京佑, 小野田 智咲, 岡林 奈津未, 濱野 祐樹 (医療法人社団 愛友会 上尾中央総合病院診療技術部 リハビリテーション技術科)

【はじめに】
脳卒中の上肢運動麻痺の改善と練習量の関係を報告した研究は軽症から中等症に多い.しかし,研究基準での報告は少ないが臨床現場では,重度運動麻痺症例でも入院期間において,大幅な機能改善が見られる場合があり,自然回復のみではなく上肢機能練習の時間や内容の影響を受けた症例が存在していると考える.従って本研究では重度運動麻痺症例の急性期から回復期病棟への入院期間中における総練習時間が上肢運動麻痺の改善に影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とする.
【対象と方法】
対象は2019年4月から2023年1月までに脳神経外科,脳神経内科に入院し,回復期病棟を介して退院した脳出血または脳梗塞の診断を受けた者とした.重度運動麻痺症例の定義としてはFugel-Meyer Assessment upper examination項目(以下FMA-UE)が,Woodburyらの提唱する重症度分類の重度とされる19点以下を条件とした.除外基準は評価の指示理解が困難な高次脳機能障害または認知症を呈する者,欠損データのある者とした.調査項目は,病型,年齢,入院前mRS,FMA-UEスコア,入院中における上肢機能総訓練時間(徒手的な促通運動,シェイピング課題,タスクプラクティスの合計),麻痺手が利き手か,感覚障害の有無をカルテより後方視的に取得した.統計解析は,まず対象者の背景因子の差を見るために上肢機能練習時間の総練習量を中央値で2群に分け群間比較を行った.次に上肢の練習量が運動麻痺の改善に与える影響を検証するために重回帰分析を行った.入院時2週目と退院時のFMA-UEスコアの差を目的変数,説明変数の内,主要評価項目として総訓練時間とし,交絡因子には入院前mRS,病型,年齢,麻痺手が利き手か,共変量には感覚障害の有無とした.有意水準は5%とした.統計ソフトはJMP(ver,11.5)を用いた.本研究は,当院の倫理委員会(承認番号1090)の承認を得て実施した.
【結果】
対象者は38名(男性19名,女性19名,平均年齢69.7±19.3歳)であり,重回帰分析の結果,上肢機能総練習時間はFMA-UEスコアの改善に影響する有意な因子であった.尚,モデルの妥当性に関しては統計的に有意であった.
【考察】
重度脳卒中患者の運動麻痺における機能改善に関して,練習時間が影響することが明らかになった.Nudo RJらの提唱する脳機能の可塑性は,早期より積極的な上肢機能練習が皮質脊髄路の興奮性を高めるとの報告があり,軽症から中等症例に関しては上肢機能の練習量が機能改善や生活動作に汎化されると提唱されている.本研究の結果は重症者に対しても自然回復に加え,急性期から回復期においての作業療法介入で上肢機能練習を行うことで,皮質脊髄路の興奮性を高め随意性の向上につながったのではないかと考える.重度運動麻痺を呈する患者は軽症例と比較して二次的な合併症が生じやすく生活動作の介助量も多いことから上肢機能練習に費やせる時間が少なくなる傾向にある.また生活場面での参加も乏しく実用手の再獲得に向けて本人の意欲や意識付けが低いと感じられる.本研究で訓練時間がもたらす影響を示せたことで,作業療法介入の際は積極的に麻痺側上肢を活動させて機能レベルの改善を図ることや,患者自身への麻痺手に対する意識付けや訓練に対する意欲の改善が期待できるのではないかと考える.
本研究の限界として,脳損傷後の自然回復に関しての根拠づけが不足していると考えられる.今後は出血量や梗塞範囲など皮質脊髄路の損傷程度を数値化し重症度を示す指標を調査項目として加えて併せて検討をしていきたい.