[PA-9-1] 拡散テンソル画像を用いて作業療法内容を検討した一例
【はじめに】
近年,脳卒中後上肢麻痺や半側空間無視に対して拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging; 以下,DTI)を用いた予後予測に関する報告がなされている1) 2).しかし,その予後予測の結果を訓練内容に反映させている報告はない.今回は作業療法評価と拡散異方性の指標として用いられるFractional Anisotropy value(以下,FA値)を基に作業療法の内容を選定し,半側空間無視が残存しながらも自宅退院となった症例を経験したため報告する.
【症例紹介・DTI解析】
X年Y月Z日に左上下肢不全麻痺にて,右中大脳動脈領域の心原性脳塞栓と診断された.Z+12日に右中大脳動脈が閉塞し,緊急血栓回収術が施行された.Z+18日に当院へ転院し,初期評価時のFMA上肢項目は18点,STEFは0点であった.BITの通常検査では118/146,CBSは22点で左半側空間無視を認めていた.FIMは運動項目が48点,認知項目が23点であった.本人の目標としては「身の回りのことが出来る」であった.なお,本報告に関しては,対象者に対して,十分に説明を実施し,書面にて同意を得ている.Z+19日でDTI撮像し,DTI解析により算出したFA値から個人差によるばらつきを抑えるため,損傷側FA/非損傷側FA(FA ratio:以下,rFA)を算出し,当院で作成した指標である健常者平均値と比較することで,予後予測の指標とした.上肢運動麻痺,左半側空間無視に関連のある白質線維を関心領域として設定した.以下に,各関心領域のrFA(健常者平均)を示す.皮質脊髄路は1.00(1.03±0.04)と保たれていたが,脳梁膝は0.51(0.58±0.03),脳梁体は0.50(0.56±0.03),脳梁膨大部は0.64(0.69±0.02),内包前脚は0.81(1.01±0.02),下前頭後頭束は1.00(1.07±0.03),上前頭後頭束は0.84(0.99±0.05),上縦束は0.89(1.03±0.03)と症例の各rFAは健常者の2標準偏差よりも低下を認めていた.
【訓練経過】
作業療法は1日2~6単位実施した.先行研究1)2)から上肢運動麻痺は改善するが,左半側空間無視は残存する可能性があることを考慮し,訓練内容としては代償手段を用いながら,日常生活活動訓練中心に実施した.左上肢の拙劣さも残存する可能性があると想定し,麻痺の改善に合わせ両手動作訓練も実施した.また,家族指導をZ+94日に行い,日常生活での注意点を指導した.その後,Z+109日に自宅退院となった.
【結果】
退院時評価では,FMA上肢項目は53点,STEFは59点であった.BITは134/146,CBSは9点で,日常生活場面では左半側空間無視が残存していた.FIMは運動項目が53点,認知項目が27点であった.
【考察】
FA値から,上肢運動麻痺の改善は得られる一方で,左半側空間無視は残存すると予測し,作業療法の内容を機能改善に対する直接的アプローチだけでなく,早期から代償手段の定着を含めた日常生活動作訓練や家族指導を実施したことで自宅退院に至ったと考える.
【引用文献】
1)Koyama T, et al :Relationship between diffusion tensor fractional anisotropy and long-term motor outcome in patients with hemiparesis after middle cerebral artery infarction. J Stroke Cerebrovasc Dis 23(9):2397-404,2014.
2)Lunven M, et al : White matter lesional predictors of chronic visual neglect: a longitudinal study. Brain 138(Pt 3):746-60,2015.
近年,脳卒中後上肢麻痺や半側空間無視に対して拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging; 以下,DTI)を用いた予後予測に関する報告がなされている1) 2).しかし,その予後予測の結果を訓練内容に反映させている報告はない.今回は作業療法評価と拡散異方性の指標として用いられるFractional Anisotropy value(以下,FA値)を基に作業療法の内容を選定し,半側空間無視が残存しながらも自宅退院となった症例を経験したため報告する.
【症例紹介・DTI解析】
X年Y月Z日に左上下肢不全麻痺にて,右中大脳動脈領域の心原性脳塞栓と診断された.Z+12日に右中大脳動脈が閉塞し,緊急血栓回収術が施行された.Z+18日に当院へ転院し,初期評価時のFMA上肢項目は18点,STEFは0点であった.BITの通常検査では118/146,CBSは22点で左半側空間無視を認めていた.FIMは運動項目が48点,認知項目が23点であった.本人の目標としては「身の回りのことが出来る」であった.なお,本報告に関しては,対象者に対して,十分に説明を実施し,書面にて同意を得ている.Z+19日でDTI撮像し,DTI解析により算出したFA値から個人差によるばらつきを抑えるため,損傷側FA/非損傷側FA(FA ratio:以下,rFA)を算出し,当院で作成した指標である健常者平均値と比較することで,予後予測の指標とした.上肢運動麻痺,左半側空間無視に関連のある白質線維を関心領域として設定した.以下に,各関心領域のrFA(健常者平均)を示す.皮質脊髄路は1.00(1.03±0.04)と保たれていたが,脳梁膝は0.51(0.58±0.03),脳梁体は0.50(0.56±0.03),脳梁膨大部は0.64(0.69±0.02),内包前脚は0.81(1.01±0.02),下前頭後頭束は1.00(1.07±0.03),上前頭後頭束は0.84(0.99±0.05),上縦束は0.89(1.03±0.03)と症例の各rFAは健常者の2標準偏差よりも低下を認めていた.
【訓練経過】
作業療法は1日2~6単位実施した.先行研究1)2)から上肢運動麻痺は改善するが,左半側空間無視は残存する可能性があることを考慮し,訓練内容としては代償手段を用いながら,日常生活活動訓練中心に実施した.左上肢の拙劣さも残存する可能性があると想定し,麻痺の改善に合わせ両手動作訓練も実施した.また,家族指導をZ+94日に行い,日常生活での注意点を指導した.その後,Z+109日に自宅退院となった.
【結果】
退院時評価では,FMA上肢項目は53点,STEFは59点であった.BITは134/146,CBSは9点で,日常生活場面では左半側空間無視が残存していた.FIMは運動項目が53点,認知項目が27点であった.
【考察】
FA値から,上肢運動麻痺の改善は得られる一方で,左半側空間無視は残存すると予測し,作業療法の内容を機能改善に対する直接的アプローチだけでなく,早期から代償手段の定着を含めた日常生活動作訓練や家族指導を実施したことで自宅退院に至ったと考える.
【引用文献】
1)Koyama T, et al :Relationship between diffusion tensor fractional anisotropy and long-term motor outcome in patients with hemiparesis after middle cerebral artery infarction. J Stroke Cerebrovasc Dis 23(9):2397-404,2014.
2)Lunven M, et al : White matter lesional predictors of chronic visual neglect: a longitudinal study. Brain 138(Pt 3):746-60,2015.