第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-13] CROT-Rを用いた実践報告

藤本 里紗1, 尾崎 由唯1, 田代 徹1, 藤本 一博2 (1.福岡リハビリテーション病院, 2.湘南OT交流会)

【はじめに】本事例は,脳梗塞により身体麻痺を呈し,Activity Daily Living(ADL)に介助が必要となった.入院中の新型コロナウィルス(COVID-19)感染を機に意欲低下し,目標に対する介入が困難となった.本事例の経過をCROT-R(Clinical Reasoning OT Tool - Resume)を用いて,作業療法士(OT)のリーズニングの可視化,意欲低下に対するOTの対応に関して振り返った.本事例を通して,臨床でのリーズニングの意義を考察する.尚,本発表については対象者の同意と当院倫理審査委員会の承認を得ている.
【基本情報】A氏,70代男性.自宅で生活中に左下肢脱力感のため転倒し救急搬送.右基底核~放線冠のアテローム血栓性脳梗塞と診断された.3週間後にリハビリ目的で当院へ転院.左上肢の使いづらさの自覚がある.また既往に糖尿病がある.
【CROT-Rまとめ】本事例の作業療法の経過について記述する.「物語的リーズニング」A氏は4人家族で,妻・長男と同居,次男は近隣在住である.病前は妻が働きに出ており,家事(掃除・洗濯)がA氏の役割であった.時折近所のスーパーへ買物に行っていた.本人のニーズは「歩けるようになりたい.家事をしたい.」家族のニーズは「自宅退院してほしい.」であった.「科学的リーズニング」入院時各種評価は,Functional Independence Measure(FIM)は運動項目58点,認知項目32点,移動は車いす全介助,ADL軽介助~見守りであった.握力は右36.8㎏,左28.2㎏であった.Canadian Occupational Performance Measure(COPM)(遂行度,満足度)は,家事をする(1,1),買物に行く(1,4)などが上がった.「実際的・倫理的リーズニング」毎日1時間OT介入の時間がある.ADL室には浴槽,物干し竿があり,家事やADL訓練は実施可能である.目標は1人で安全にADL・家事動作が可能になることである.手指の拙劣さがあり,上肢-手指の協調運動,手指巧緻性に介入.バランス訓練も兼ね,座位から立位へと段階付けて実施する.ある程度立位保持可能となればADL・IADL動作も併行して実施する.「相互交流リーズニング」入棟14日後に病棟内車椅子,トイレ動作とも自立となった.入棟20日後にCOVID-19に感染し,隔離に伴う廃用・訓練への意欲低下がみられ,目標に対する介入が困難となり,ベットサイドでの介入が増えた.入棟60日後の外泊訓練で,実際に身体の不自由さを感じた.また,妻を見て「頑張らないと」と,再び訓練への意欲が高まった.帰宅後から「家事ができるようになりたい.歩きたい.」と訓練への前向きな姿勢がみられ,病棟でも杖歩行する姿を目撃するようになった.
【結果】FIMは運動項目81点,認知項目32点と向上し,移動は歩行自立,ADLも浴槽移乗のみ監視でそれ以外は自立となった.握力は右32.7㎏ 左25.7㎏であった.COPM(遂行度,満足度)は,家事をする(5,4),買物に行く(5,4)と概ね向上が見られた.退院後は,ADL・IADL動作ともに遂行可能だが,訪問リハやデイケアなど利用も検討している.
【考察】本事例は COVID-19発症を機に意欲低下があり.それに対してOTはどのように対応すればよいかわからなかった.CROT-Rを利用し振り返ることで,事例の変化に対し,目標やアプローチを変えずに関わったことがクライエント(CL)とOTの認識の不一致を生じさせていることを理解できた.このようにCROT-Rを利用することで自己の臨床思考プロセスを振り返り,OT自身の成長に繋がると考えられる.
【参考文献】
1)藤本一博,小川真寛,京極真:5つの臨床推論で整理して学ぶ作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022,pp.1-256.