第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-14] 慢性期脳卒中患者における手指感覚運動障害に対する触知覚代償フィードバック練習の効果

溝本 恭久1, 兒玉 隆之2 (1.医療法人瑞心会渡辺病院リハビリテーション科, 2.京都橘大学健康科学部 理学療法学科)

【はじめに】脳卒中後の手指後遺症の一つに痙縮による運動機能障害がある.これは脳脊髄活動の再構成による筋の過活動を引き起こし(Gracies, 2001),目標動作を遂行させる筋群の協調的制御を困難にする.特に,巧緻運動を担う手指が感覚障害を合併した場合(感覚運動障害),対象肢からのフィードバック(以下, FB)情報が減衰し,把握動作時の静的把持力が過剰出力を示すことが報告されている (Nowak et al., 2005).近年,感覚運動障害に対する新しい介入手法として,手指からの触知覚情報を感覚障害のない,もしくは軽度な身体部位へ振動刺激として代償的にリアルタイムFBすることを可能とする「ゆびレコーダー(テック技販社製)」を用いた手法が開発され,物品操作能力やしびれの改善効果が報告されている (Kitai, Kodama et al., 2021).しかしながら,これまでは上肢全体の感覚運動障害患者に対する報告のみであり,手指に限局した障害に対する短期間での介入効果の報告はない.今回,手関節から手指に重度の感覚運動障害を有する症例に対し,ゆびレコーダーを用いた上肢機能練習の効果を検証したため報告する.
【方法】対象は70歳代女性.X年1月に右視床出血発症. X年7月に自宅へ退院し,訪問リハ開始となった.X+1年1月より訪問リハにてゆびレコーダーを用いた上肢機能練習を開始した.作業療法評価よりFugl-Meyer Assessment(以下, FMA)は上肢28点(手関節項目1点,手項目6点).感覚検査では触覚,深部覚共に鈍麻.Modified Ashworth Scale(以下, MAS)は手関節2,母指1+.麻痺側上肢の使用時に手指へ過度に力が入り,物を落とす場面をよくみた.ゆびレコーダーを用いた上肢機能練習のプロトコルはシングルケースデザインのABAB型デザインを用い,各期共に3日と設定した.A,A´期は通常練習(ストレッチ,歩行練習)に加えて,上肢機能練習としてつまみ動作練習と10秒間で母指-示指の反復指腹つまみ回数を計測するFinger Tapping Test(以下, FTT),5本のペグを盤から1本ずつ,かごへ入れる練習(以下, ペグ練習)を行った. B,B´期は通常練習に加えてゆびレコーダー装着下でつまみ動作練習とFTT,ペグ練習を行った.効果判定はFTT,ペグ練習における試行時間と各期でFMAの手関節と手項目,MASを測定した.
【倫理的配慮】対象へ研究の趣旨を説明し,発表に関する同意を得ている.
【結果】FTTはA期10.67±0.57回,B期12.33±2.51回,A´期 9.67±0.58回,B´期 12.37±0.58回であった.ペグ練習の試行時間はA期18.29±0.95秒,B期13.87±1.05秒,A´期16.27±0.44秒,B´期12.74±0.87秒であった.FMAの手関節,手項目,MASに変化はなかった.
【考察】A,A´期と比べB,B´期にFTTとペグ練習において一定の改善を認めた.FTT回数は手指運動麻痺に関連しており,FTTと手指巧緻性の関連性が指摘されている(丸太, 1986).今回改善を認めた理由として,Yehら(2021)は感覚運動障害患者に対し二日間の体性感覚に焦点を当てた能動的運動介入が有効であったと報告している.さらに,運動に際し主動筋が感覚情報に基づき効率よく収縮すると同時に拮抗筋が協調的に弛緩することで協調運動は達成されることから(花岡, 2009),物をつまむ際の過剰な筋活動をゆびレコーダーによるFBで制御できたことで,動作時の筋の過活動を抑制する学習が成され改善を認めた可能性が考えられた.以上より,感覚運動障害へのゆびレコーダーを用いた上肢機能練習は,痙縮を背景とした筋の過活動を制御する介入手法の一助となる可能性が示唆された.