第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-15] 感覚性運動失調を呈した脳卒中者に対する振動刺激と装具療法を併用した課題指向型訓練の実践

宝田 光1, 外崎 達也1, 竹林 崇2 (1.医療法人 札幌麻生脳神経外科病院, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科)

【はじめに】脳卒中後に生じる感覚障害は67~85%に認められ (Carey2011),セルフケアの自立度やQOLとの関連が報告されている(Tyson,2008).今回,重度の感覚障害,感覚性運動失調により道具操作の獲得に難渋した脳卒中者に対し,能動的感覚再学習訓練,振動刺激療法と装具療法を併用した課題指向型訓練を実施した.結果,上肢機能,感覚機能が改善し,麻痺手でのスプーン操作が可能となる変化を認めた.
【症例紹介】A氏,70代,女性.右中心前回を中心とした左前頭葉頭頂葉梗塞を発症し入院となった.発症当日の運動機能はBrunnstrom Stage右上肢Ⅳ手指Ⅳレベル.感覚機能は表在・深部共に重度鈍麻~脱失であった.なお本報告に際して,事例に同意を得ている.
【作業療法評価(第17病日)】ニーズ:右手で食事ができるようになりたい. 運動機能:Fugl-Meyer Assessment(FMA):51(A36,B9,C6,D0),Motor Activity Log(MAL):Amount of use(AOU)・Quality of movement(QOM)0.5,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA):8.感覚機能:上肢表在感覚・深部感覚は肘関節より遠位部は脱失.位置覚はStroke Impairment Assessment Set:0点,母指探し試験:3度.重量弁別は60gも認識できないことがあった.協調性:鼻指鼻試験では測定異常,企図振戦を認めた.把握運動:手の構えを作ることが困難で,右手で物を掴む・つまむ動作は困難であった.
【介入方法】能動的感覚再学習訓練:花田らが実施した方法を参考に,重量知覚・大小知覚・立体知覚の課題を設定し,1回あたり30分,週7回の頻度で実施した(花田,2021).
振動刺激療法:有時らの方法に準じて実施した(有時,2018).機器はスライヴ MD-021(大東電機工業)を使用し,課題指向型訓練のプレコンディショニングとして手関節総指伸筋腱に振動刺激を行った.装具療法:母指のIP・MP関節を対立位に固定するワンタッチバンド(アップル医療機器)を使用し,右手使用時に装着した.課題指向型訓練:1分間の振動刺激を実施後,ワンタッチバンドを装着した状態で,食事動作を目的とした課題指向型訓練を実施した.食事動作に関する練習内容は,原田らの方法を参考に難易度を調整した(原田,2017).過剰な筋収縮の抑制を目的とした振動刺激を実施後,手関節・指関節の単関節反復運動を実施した.また,道具操作課題として,直径1㎝程度のスポンジ・ビー玉・ブロックをスプーンで器に移動する課題を実施した.運動方向は前後・左右への水平移動から開始し,移動範囲や器の種類で難易度を調整した.スプーンの形状は柄が太く重量のある形状を選択した.
【結果(第65病日)】FMA:51(A36,B9,C6,D0),MAL:AOU・QOM1.4,SARA:3.感覚機能は脱失部位が重度鈍麻となり重量弁別は20gで正答した.スプーン操作が可能となり,食事動作を含む右手の使用頻度が向上した.
【考察】系統だった感覚再教育トレーニングは感覚識別能力や上肢動作の改善が報告されている(smania,2003).また,運動失調に対する課題指向型訓練は,WMFTやFMAが向上した報告がある(Richards,2008).本症例は振動刺激や装具療法を併用し,感覚性運動失調の影響を抑制した状態で課題指向型訓練が実施でき,上肢機能が向上したと考えられた.しかし,発症から2か月間の報告であり,自然回復の影響は否定できない.