第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-18] 急性期脳卒中患者における早期トイレ排泄の可否に影響する因子

新山 祐貴1, 鈴木 久義2 (1.小田原市立病院リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【序論・目的】
 急性期脳卒中患者のリハビリテーションは十分なリスク管理のもとにできるだけ発症早期から積極的なセルフケア練習を行うことを強く勧められている.また,急性期脳卒中患者の急性期病院での身体活動量が,3ヶ月後の日常生活活動(ADL)の自立度に影響することが報告されている.ADL動作の中でも特にトイレ排泄に関しては入院中の脳卒中患者においてニーズの高い動作であり,頻回に行われる動作であるため,早期に病棟生活でトイレ排泄ができることが望ましい.しかし,脳卒中患者におけるトイレ排泄に関する報告は回復期リハビリテーション病院入院中の患者を対象とした報告が多く,急性期病院でのトイレ排泄に関しては明らかとなっていない.そこで本研究の目的は,急性期病院で特徴的な要因を含め,急性期脳卒中患者における早期トイレ排泄の可否に関連する因子を抽出し,影響度を検討することであった.
【方法】
 対象は三次救急指定病院に脳卒中で入院し,リハビリテーションの依頼があった103名のうち,くも膜下出血例,外科的介入例,病前トイレ排泄未実施例,バイタルサインが不安定で離床困難な例,離床困難な整形疾患を合併例,意思疎通が困難例,拒否した例を除外した61名とした.基本情報,膀胱カテーテル留置と点滴投与期間,初回離床時の排尿障害と排便障害,経鼻胃管チューブの有無,麻痺側下肢機能(FMA-LE),体幹機能(FACT),せん妄重症度(J-NCS),認知機能(MMSE)を測定した.発症5日以内のトイレ排泄の可否で群分けをし,χ検定,Wilcoxonの順位和検定,Studentのt検定を行った.トイレ排泄の可否に影響する因子を抽出するために,説明変数を2群間比較にて有意差を認めた因子として,強制投入法によるロジスティック回帰分析を行った.なお,多重共線性に配慮し,説明変数間でSpearman の順位相関係数にて 0.8以上となった場合は,臨床的意義の高い変数を選択した.ロジスティック回帰分析の結果,抽出された有意な変数について受信者動作特性曲線(ROC)を用いて感度,特異度,曲線下面積からカットオフ値を求めた. カットオフ値は Youden indexに基づいて決定した.有意水準を0.05とした.本研究は小田原市立病院医療倫理審査委員会(承認番号第2021-6号)の承認と,対象者または代諾者に書面で説明し同意を得て行った.
【結果】
 対象者の70.5%が発症5日以内にトイレ排泄を行っていた.発症5日以内でのトイレ排泄の可否に関しては,年齢(P=0.023),膀胱カテーテル留置期間(P=0.001),点滴使用期間(P=0.004),排尿障害(P<0.001),排便障害(P<0.001),FMA-LE(P<0.001),FACT(P<0.001),J-NCS(P<0.001),MMSE(P<0.001)に有意差を認めた.ロジスティック回帰分析の結果,トイレ排泄の可否に関連する因子は,FMA−LE(P=0.011,Exp(B)1.32,95%信頼区間:1.064-1.6818)が選択された.ROC曲線下面積は0.947(95%信頼区間:0.895−0.999)であった.トイレ排泄の可否を判別するFMA−LEのカットオフ値は28で,感度は83.7%,特異度は99,4%であった.
【結論】
 急性期脳卒中患者のFMA-LEは,発症5日以内の病棟生活でのトイレ排泄可否に影響する因子である可能性が示唆された.算出されたカットオフ値は28で,急性期病院でのトイレ排泄の可否を判断する際の客観的な基準となる.