[PA-9-6] 美容師への就労支援を実施した一例
【はじめに】
これまで脳損傷後の就労支援の報告は散見されているが，美容師などの技術職の就労支援の報告は少ない．美容師などの技術職の就労支援においては，作業療法士（以下OT）の医学的評価だけでは不十分な側面がある．今回，同業者の美容師に協力を得て，包括的な評価を実施した症例を経験したので以下に報告する．なお症例に対して症例報告について説明し同意を得た．
【症例】
症例は40歳代女性の右利きである．右中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し，当院に入院となった．第3病日よりOT開始した．第83病日にAリハビリテーション病院に転院し，第116病日に退院した．第153病日にはIADL獲得を目的に当院の外来OTが開始された．段階的にアプローチを実施し，第334病日には家事動作の獲得が可能となった．第431病日に就労支援を開始した．家族構成は，夫と子供2人の4人暮らし．職業は美容室を1人で経営していた．家庭内では，家事業務も行っていた．
【作業療法評価】
就労支援開始時は，BRS上肢Ⅴ・手指Ⅴ・下肢Ⅴであった．感覚は左上下肢にしびれの異常感覚を認めた．簡易上肢機能検査は（右）94点（左）91点であった．神経心理学検査は，長谷川式簡易機能検査では28/30点であった．標準注意検査法では，分配性注意，処理速度，ワーキングメモリの低下を認めた．左半側空間無視なく，構成障害は認めなかった．自宅にて自身の子供の髪をカットした際に，「左側が長くなった」「昔のように上手くカットできなくなった」との訴えを認めた ．
【経過】
髪のカットについて詳細に分析するために，OTが患者の職場に赴き，施術した内容をビデオで撮影した．なお，技術的な評価については，OTのみでは判断が困難なため，美容師の資格を有する知人にビデオ観察による評価を依頼した．
OTの評価では，客との会話に夢中になることによって，両手同時作業時に左手の拙劣さが顕著に出現することが確認された．同業者の美容師の評価では，髪をカットする際に髪を持つ麻痺側の前腕の位置が不良であったことや，髪の濡れ具合の状態を考慮してカットできていなかったことの 問題が指摘された．
OTの評価と同業者の美容師の評価を元に，本人が動画を確認すると，現状の課題が明確になった．客との会話に夢中になることによって，両手同時作業時の左手の拙劣さがあるため，両手同時作業時には極力会話しないように助言を行った．その後，麻痺側により意識を向けられるようになったため，拙劣さの改善がみられた．また，施術時に麻痺側の前腕が床と平行になるように随時位置を確認することを指導した．さらに，麻痺側上肢の動作が改善できるように，麻痺側上肢訓練と自主トレーニングを行った ．髪の濡れ具合の状態も考慮してカットできるようになった．その後，約１ヶ月後に，美容師として復職することができた．
【考察】
就労支援におけるOTの役割については，包括的な評価が重要と考えられている．本例においては，身体機能や高次脳機能を考慮した評価は行えていたが，美容師の施術の技術面における評価を行うことは困難であった．そのため，同業者に依頼をし，同業者からの技術面の助言をもとに，包括的な評価を行なったことで，より有効な治療プログラムを立案でき，復職に繋がったと考える．
これまで脳損傷後の就労支援の報告は散見されているが，美容師などの技術職の就労支援の報告は少ない．美容師などの技術職の就労支援においては，作業療法士（以下OT）の医学的評価だけでは不十分な側面がある．今回，同業者の美容師に協力を得て，包括的な評価を実施した症例を経験したので以下に報告する．なお症例に対して症例報告について説明し同意を得た．
【症例】
症例は40歳代女性の右利きである．右中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し，当院に入院となった．第3病日よりOT開始した．第83病日にAリハビリテーション病院に転院し，第116病日に退院した．第153病日にはIADL獲得を目的に当院の外来OTが開始された．段階的にアプローチを実施し，第334病日には家事動作の獲得が可能となった．第431病日に就労支援を開始した．家族構成は，夫と子供2人の4人暮らし．職業は美容室を1人で経営していた．家庭内では，家事業務も行っていた．
【作業療法評価】
就労支援開始時は，BRS上肢Ⅴ・手指Ⅴ・下肢Ⅴであった．感覚は左上下肢にしびれの異常感覚を認めた．簡易上肢機能検査は（右）94点（左）91点であった．神経心理学検査は，長谷川式簡易機能検査では28/30点であった．標準注意検査法では，分配性注意，処理速度，ワーキングメモリの低下を認めた．左半側空間無視なく，構成障害は認めなかった．自宅にて自身の子供の髪をカットした際に，「左側が長くなった」「昔のように上手くカットできなくなった」との訴えを認めた ．
【経過】
髪のカットについて詳細に分析するために，OTが患者の職場に赴き，施術した内容をビデオで撮影した．なお，技術的な評価については，OTのみでは判断が困難なため，美容師の資格を有する知人にビデオ観察による評価を依頼した．
OTの評価では，客との会話に夢中になることによって，両手同時作業時に左手の拙劣さが顕著に出現することが確認された．同業者の美容師の評価では，髪をカットする際に髪を持つ麻痺側の前腕の位置が不良であったことや，髪の濡れ具合の状態を考慮してカットできていなかったことの 問題が指摘された．
OTの評価と同業者の美容師の評価を元に，本人が動画を確認すると，現状の課題が明確になった．客との会話に夢中になることによって，両手同時作業時の左手の拙劣さがあるため，両手同時作業時には極力会話しないように助言を行った．その後，麻痺側により意識を向けられるようになったため，拙劣さの改善がみられた．また，施術時に麻痺側の前腕が床と平行になるように随時位置を確認することを指導した．さらに，麻痺側上肢の動作が改善できるように，麻痺側上肢訓練と自主トレーニングを行った ．髪の濡れ具合の状態も考慮してカットできるようになった．その後，約１ヶ月後に，美容師として復職することができた．
【考察】
就労支援におけるOTの役割については，包括的な評価が重要と考えられている．本例においては，身体機能や高次脳機能を考慮した評価は行えていたが，美容師の施術の技術面における評価を行うことは困難であった．そのため，同業者に依頼をし，同業者からの技術面の助言をもとに，包括的な評価を行なったことで，より有効な治療プログラムを立案でき，復職に繋がったと考える．