第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-7] 回復期リハビリテーション病棟に従事する作業療法士が脳卒中者のトイレ動作を自立と判断する要因

佐藤 慶一1,2, 笹田 哲3 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院博士課程前期, 2.横須賀市立うわまち病院, 3.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉研究科)

【背景と目的】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)は,患者の日常生活活動(以下,ADL)の向上と在宅復帰が使命であり,入棟する原因疾患の多くを脳卒中が占めている.ADLの中でもトイレ動作は,患者の自尊心に影響し,在宅復帰を左右する要因の一つである.一方で,脳卒中者にとって難易度が高く,回復期病棟のトイレでの転倒が報告されており,自立度の判断が難しいADLである.トイレ動作の自立度における先行研究では,バランス評価を用いた報告が多くされているほか,Decision tree分析を用いたものなど,多くの報告がある.このような知見はあるものの,回復期病棟のトイレでは転倒事故が多く発生している.よって,臨床の場で,作業療法士(以下,OTR)がどのような要因で,脳卒中者のトイレ動作の自立度を判断しているのかを明らかにし,先行研究の知見に加えることで,脳卒中者のトイレ動作の自立度を判断する際の一助になる可能性がある.本研究の目的は,回復期病棟に従事するOTRが,どのような要因で脳卒中者のトイレ動作の自立度を判断しているのかを明らかにし,臨床判断の一助にすることである.
【方法】本研究は半構造化面接法を用いた質的研究である.研究参加者の選定には,目的的サンプリングを用い,7±2名のOTRを3±1施設より選定した.選定基準は,現在回復期病棟に従事しており,回復期病棟の勤務経験が5年以上の者とした.除外基準は,包含基準に当てはまらない者.非常勤の者とした.データは半構造化面接法を用いた個別インタビューにて収集した.インタビューガイドは所属している回復期病棟についてや,脳卒中者のトイレ動作自立度の判断要因についてを中心に構成した.また,インタビューは研究参加者の同意を得た上で録音し,録音した音声データから逐語録を作成した.分析にはリフレクティブテーマ分析(以下,RTA)を用い,帰納的に分析した.分析は,質的研究の経験を有した第三者の助言を受けながら,研究代表者が実施した.なお,本研究は大学の倫理審査を受け,口頭と書面にてOTRの同意を得ている.
【結果】研究参加者は4施設より,7名であった.RTAでの分析の結果,97のコードより,8つのテーマ,13のサブテーマが生成された.生成された8つのテーマは『実際のトイレ動作の確認』,『クライアントの認識と状況判断の確認』,『転倒の可能性の予測』,『他職種からのトイレ動作に関する情報』,『入院中と退院先の物理的・社会的環境』,『クライアントの考えや思い』,『OTRが持つ客観的評価指標の考え方との照らし合わせ』,『OTRの役割に対する責任感との葛藤』であった.OTRは,生成された8つのテーマを包括的に,または一部を用いて自立度を判断していた.
【考察】RTAにより生成された8つのテーマのうち,『実際のトイレ動作の確認』,『クライアントの認識と状況判断の確認』,『転倒の可能性の予測』,『他職種からのトイレ動作に関する情報』,『OTRが持つ客観的評価指標の考え方との照らし合わせ』の5つが医学モデルの視点,『クライアントの考えや思い』,『入院中と退院先の物理的・社会的環境』,『クライアントの考えや思い』の3つが心理・社会的レベルからの視点,OTRのアイデンティティを含んだものであった.これらの医学モデルの視点,心理・社会的なレベルからの視点,OTRのアイデンティティを含んだ視点は,相互補完関係にあると考えられ,OTRは,これらのテーマによる要因を用いて.幅広い視点から自立度を判断していると考えられた.これらのテーマを用いて自立度を検討することで,クライアントにとって利益のある判断に繋がる可能性がある.