第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

心大血管疾患

[PB-1] ポスター:心大血管疾患 1

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PB-1-5] 急性大動脈解離を発症後に生活空間が狭小化した患者に向けた作業療法

田口 功隼1, 夏加 孝明1, 筧 智裕2 (1.医療法人社団常仁会 牛久愛和総合病院リハビリテーションセンター, 2.国際医療福祉大学成田保健医療学部 作業療法学科)

【序論】重篤な疾患の経験は,再発への恐怖心から生活範囲を狭めることに繋がる場合がある.とりわけ致死的な循環器疾患の患者においてはその傾向がより顕著な印象を受ける.今回,急性大動脈解離を発症し,疾患再発への恐怖心から退院後に生活空間が狭小化した事例に対し,外来リハビリテーション(以下外来リハ)による支持的な関わりを通して,生活空間の拡大を図ることが出来た.発表に際し事例から同意を得ている.【事例紹介】80歳代男性,無職,妻,息子夫婦,孫2人と同居しており,日常生活は自立していた.病前は妻とともに自転車で買い物に行くことや,週に2回趣味である釣りに行くことが楽しみであった.当院にて急性大動脈解離Stanford A型と診断されたが,偽腔が閉塞していたため保存療法が選択され,1ヶ月の入院となった.自宅退院後,週1回の外来リハを開始した.【初期評価(外来リハ開始時)】体重:98kg,Body Mass Index(BMI):33.5kg/m2,安静時収縮期血圧110-120mmHg,Short Physical Performance Battery(SPPB):12点,6分間歩行試験:320m,膝伸展筋力(左右平均):22.9kgf(体重比;0.23kgf/kg),認知機能の低下は無く日常生活は自立していた.活動量は1日2000歩程度,Life-Space Assessment(LSA)48点,事例自らの意思で車の運転は控え,外出は自宅周辺の短時間の散歩に留めていた.事例より「一歩間違えば死んでしまうような病気をしてしまった.再発するのが怖い.運転や運動はどこまでやっていいのか悩んでしまう.」との発言があり,面接の中では再発に関わる危険因子(高血圧,肥満)の治療に関する情報が欠如しているように思われた.【介入】1. 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインに則り,収縮期血圧や心拍数を確認しながらの運動療法を指導した.2. 高血圧,肥満に対するセルフモニタリング方法の指導として,手帳への血圧・体重・歩数の記載及び継続できていることに対し正のフィードバックを行った. 3.再発危険因子に関する生活指導として服薬や食事管理に対するアドバイスや,入浴等生活動作の注意点を指導した.4.負荷の漸増及び社会復帰に向けての助言として,身体活動のメッツ表を用い自身の現在の運動耐容能と手段的日常生活活動や趣味活動の活動量との比較を行った.【結果(2ヶ月後)】体重:91.8kg,BMI:31.4kg/ m2,安静時収縮期血圧110-120mmHg,SPPB:12点,6分間歩行試験:340m,膝伸展筋力:26.1kgf(体重比;0.28kgf/kg),1日9000歩程度歩行するようになった.LSA:102点となり,自動車運転や趣味の釣りを再開することが出来た.「血圧も安定しているし,体重も減ってきた.前より健康になった気がするよ.」との発言が聞かれた.【考察】生活空間の狭小化は,身体機能や日常生活活動能力の低下,虚弱の発生,死亡リスクの増加を招くことが示されている(Peel C,2005).また,LSAに影響を及ぼす要因は日常生活活動に対する自己効力感や外出自己効力感であることが示されている(塩澤和人,2015).疾患に対する知識の共有や,血圧や体重,運動量等のセルフモニタリング及び正のフィードバックを繰り返したことにより,自己効力感が高まり生活空間の拡大が可能となったと思われる.