[PC-2-4] 間質性肺炎の生活指導に対して高次脳機能評価の必要性を検討した一症例
【はじめに】呼吸疾患患者の作業療法(以下OT)は,息切れを伴う様々な活動に対して,呼吸方法の練習や効率的な動作方法の助言,環境調整などを通じて,生活の質の向上を支援することである.しかし,呼吸器疾患患者の高次脳機能に着目した報告は少なく,高次脳機能との関係を検討しながら日常生活動作(以下ADL)の習得を目指していくことが期待されている.今回間質性肺炎の入院加療中に呼吸状態とADLは改善したが,ステロイドによる薬剤性血糖異常と認知機能の低下を認め,インスリン注射に介助が必要となった症例を担当した.入院時の高次脳機能評価の必要性を検討したため報告する.尚,本報告については,本人・家族・所属長より承認を得た.
【症例紹介】70歳代男性,既往に間質性肺炎があり,経口ステロイド療法と在宅酸素療法(以下HOT)4.5Lで経過していた.屋内ADLは自立だが,屋外歩行機会はなく,介護認定は要支援1を受けていた.日常生活上での呼吸苦が著明となり,X日に間質性肺炎の急性増悪で入院となった.
【初回評価】OT開始時では,ネーザルハイフロー45L/min 60%で安静時SpO2:92%,筋力・運動機能は保たれており,排泄も尿瓶で自立はしていたが,労作時にSpO2:86%まで低下を認め,呼吸苦が著明であった.長崎大学呼吸器日常生活評価表(以下NRADL)は6点,Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)11点,長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)23点であった.本人の希望は「苦しさがなく長く歩きたい」だった.
【経過】X+11日まで高流量酸素療法が導入され,その間のリハビリテーションは理学療法と午前・午後に分け,ベッドサイドでの筋力訓練,起立練習を実施した.鼻カニュラ2L/minに減量後,トイレ動作評価や歩行練習を開始した.見当識は保たれており,呼吸状態に合わせた休憩や動作の理解は良好であった.X+24日には酸素投与なしでも屋内歩行が可能な状態まで改善し,6分間歩行テストは250.5m,NRADL:61点,HADS:2点となった.退院可能な状態となったが,ステロイドの内服による高血糖がみられ,在宅復帰に向けたインスリン注射の指導が開始された.また,服薬に関しても管理が不十分となり,看護師管理となった.インスリン注射の指導は看護師のもと繰り返し行われたが, 習得が困難であった.OTでは認知機能訓練として計算課題を導入し,インスリン注射に関しては手順のポイントを強調したが,混乱がみられた.高次脳機能の精査を行ったところ,HDS-R:19点,Frontal Assessment Battery(以下FAB)13点,Japanese version of Montreal Cognitive Assessment(以下MoCA-J)17点であり何れもカットオフ値を下回る結果となった.X+39日,看護師・医師と相談の上,インスリン注射は家族指導指導を行い,自宅退院に至った.
【考察】本症例は,薬物療法と高流量酸素療法と並行して運動療法や,ADL指導を実施したことで,運動耐応能・動作上の呼吸苦が改善し,HOTなしでの生活が獲得できた.しかし,インスリン注射や内服の管理について介助を要す結果となってしまい,要因には入院加療中の認知機能低下と入院以前のステロイド治療等の影響による高次脳機能が影響していると思われる.慢性呼吸器疾患は低酸素血症や非活動により,軽度認障害(以下MCI)が多いと予測されており(崎谷亜美2021),本症例も入院時よりMoCA-J,FAB等の高次脳機能評価を行うことで,認知機能訓練やインスリン注射の指導方法や介護サービスの見直し等を早期に検討できたかもしれない.MCIは患者教育にも悪影響を与える可能性があり,慢性呼吸器疾患のOT介入にあたっては運動療法やADL指導に加え,高次脳機能にも着目したアプローチの重要性も示唆された.
【症例紹介】70歳代男性,既往に間質性肺炎があり,経口ステロイド療法と在宅酸素療法(以下HOT)4.5Lで経過していた.屋内ADLは自立だが,屋外歩行機会はなく,介護認定は要支援1を受けていた.日常生活上での呼吸苦が著明となり,X日に間質性肺炎の急性増悪で入院となった.
【初回評価】OT開始時では,ネーザルハイフロー45L/min 60%で安静時SpO2:92%,筋力・運動機能は保たれており,排泄も尿瓶で自立はしていたが,労作時にSpO2:86%まで低下を認め,呼吸苦が著明であった.長崎大学呼吸器日常生活評価表(以下NRADL)は6点,Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)11点,長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)23点であった.本人の希望は「苦しさがなく長く歩きたい」だった.
【経過】X+11日まで高流量酸素療法が導入され,その間のリハビリテーションは理学療法と午前・午後に分け,ベッドサイドでの筋力訓練,起立練習を実施した.鼻カニュラ2L/minに減量後,トイレ動作評価や歩行練習を開始した.見当識は保たれており,呼吸状態に合わせた休憩や動作の理解は良好であった.X+24日には酸素投与なしでも屋内歩行が可能な状態まで改善し,6分間歩行テストは250.5m,NRADL:61点,HADS:2点となった.退院可能な状態となったが,ステロイドの内服による高血糖がみられ,在宅復帰に向けたインスリン注射の指導が開始された.また,服薬に関しても管理が不十分となり,看護師管理となった.インスリン注射の指導は看護師のもと繰り返し行われたが, 習得が困難であった.OTでは認知機能訓練として計算課題を導入し,インスリン注射に関しては手順のポイントを強調したが,混乱がみられた.高次脳機能の精査を行ったところ,HDS-R:19点,Frontal Assessment Battery(以下FAB)13点,Japanese version of Montreal Cognitive Assessment(以下MoCA-J)17点であり何れもカットオフ値を下回る結果となった.X+39日,看護師・医師と相談の上,インスリン注射は家族指導指導を行い,自宅退院に至った.
【考察】本症例は,薬物療法と高流量酸素療法と並行して運動療法や,ADL指導を実施したことで,運動耐応能・動作上の呼吸苦が改善し,HOTなしでの生活が獲得できた.しかし,インスリン注射や内服の管理について介助を要す結果となってしまい,要因には入院加療中の認知機能低下と入院以前のステロイド治療等の影響による高次脳機能が影響していると思われる.慢性呼吸器疾患は低酸素血症や非活動により,軽度認障害(以下MCI)が多いと予測されており(崎谷亜美2021),本症例も入院時よりMoCA-J,FAB等の高次脳機能評価を行うことで,認知機能訓練やインスリン注射の指導方法や介護サービスの見直し等を早期に検討できたかもしれない.MCIは患者教育にも悪影響を与える可能性があり,慢性呼吸器疾患のOT介入にあたっては運動療法やADL指導に加え,高次脳機能にも着目したアプローチの重要性も示唆された.