第57回日本作業療法学会

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ポスター

呼吸器疾患

[PC-3] ポスター:呼吸器疾患 3

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PC-3-1] 多疾患を併存した重症呼吸不全患者に対する作業療法経験

仁木 裕也1, 西 悦子1, 堀江 翔1, 麦井 直樹1, 八幡 徹太郎2 (1.金沢大学附属病院リハビリテーション部, 2.金沢大学附属病院リハビリテーション科)

【はじめに】今回,多数の疾患を合併し,低活動が遷延した重症呼吸不全患者を経験した.作業活動を通して,離床時間の延長,ADLの改善が得られた経過を報告する.発表に際して本人に書面で同意を得た.
【症例紹介】60歳代,男性.特発性間質性肺炎,COPD,統合失調症,糖尿病あり.元来ADLは自立しておりグループホームに入所していた.X-6か月,不安定狭心症の診断で当院にて手術を受け退院した.X-23日,左上葉肺がんに対して,手術を施行され,12日後に退院した.X-9日,転倒し左胸部の疼痛,呼吸困難感を自覚された.X日当院救急搬送され,左外傷性血胸,左第5肋骨骨折の診断で開胸血腫除去術が施行された.X+8日熱発ありCTにて右肺の肺炎を認めた.X+14日ICU退室し理学療法(PT)を開始された.X+16日間質性肺炎の増悪が疑われプレドニゾロン60mg開始された.X+52日,肺炎の増悪を認めICU入室し気管切開術が施行された.細菌性肺炎,間質性肺炎の増悪を繰り返し,治療は難渋した.またICU入室中はせん妄が著しく,リエゾンチームの介入もあったが改善なく経過した.PT,看護ケアの拒否があり,加えて呼吸困難感が強く離床を想定した訓練が行えなかった.X+92日ICU退室し離床促進のため作業療法(OT)開始した.
【初回評価】夜間は人工呼吸器装着,血圧98/52mmHg,安静時心泊数123回/分(心房頻拍:AT),経皮的酸素飽和度98%(高流量酸素療法,50L,25%),安静時呼吸数45回/分.GCSはE4VTM6,MMTは上下肢3で基本的動作やADLは全般性に介助を要した.詳細な認知機能の評価は困難であった.明らかな幻覚や妄想などはなかった.ADL改善には積極的な訓練が必要な状態であった.一方でコントロール不良なATがあり,運動療法が相対的に禁忌な状態であった.また安静時より強い呼吸困難感や意欲・自発性の低下による離床の拒否などにより廃用性の機能障害が進行し,ADL改善に難渋していた.
【OT経過】開始日より約2Mets程度の活動強度で症例が自発的に可能であった作業活動を行った.作業種目は風船バレー,モグラ叩きゲーム,キャッチボール,誤りなし学習などを行い,飽きたら種目を変え行った.訓練の負荷量は原則として,自覚的運動強度(Borg)が13以下とした.また,心泊数や呼吸数,SpO2が大きく変動しないようモニタリングをしながら行った.作業活動を用いながらの離床は拒否なく受け入れ良好であったが呼吸困難感は持続した.ベッド上での訓練はBorg11であったため,リクライニング車椅子に乗車しながら訓練を行った.X+109日にBorg12で約30分の乗車が可能になったため,普通型車いすに移行した.この頃より,自走訓練,歩行訓練,トイレ動作訓練も追加して行った.X+157日よりトイレ動作は監視で行えるようになり,歩行器歩行で連続20mの移動が可能になった.一方で肺炎の器質化を認め,気切孔を閉鎖することができずX+204日転院となった.
【考察とまとめ】症例は多数の合併症があり,細菌性肺炎,間質性肺炎の増悪を繰り返し,呼吸困難感により離床拒否を認めていた.呼吸不全によりADL改善に難渋した症例に対し作業療法が奏功した報告は散見されるが,作業活動を中心に行った報告はない.早期に離床が求められる中,PT,看護ケア拒否などにより難渋していたが,OTにより症例が訓練に好意的に取り組めるよう作業活動を行った結果,拒否なく離床を行うことができた.今回経験した作業活動は身体的に必要なADL動作能力の向上,また精神的な安定をもたらした可能性があり,進行する呼吸不全により離床の難渋する症例に対して有用であった.