第57回日本作業療法学会

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ポスター

呼吸器疾患

[PC-3] ポスター:呼吸器疾患 3

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PC-3-3] 人工呼吸器管理中の重度四肢麻痺患者にコミュニケーション支援を通じて集中治療症候群(PICS)予防を行った一例

千田 茂1, 別所 恵美1, 大野 聡恵1, 銘形 愛2, 中澤 祐介3 (1.石川県立中央病院医療技術部 リハビリテーション室, 2.石川県立中央病院看護部, 3.石川県立中央病院診療部)

【はじめに】集中治療症候群(PICS)はICU患者の長期的予後に影響する身体障害・認知障害・精神障害で,患者家族の精神にも影響を及ぼすとされている.特に,人工呼吸器装着や重度四肢麻痺を伴う場合は会話や筆談によるコミュニケーションが困難であり,集中治療室在室中にせん妄を生じることが数多く報告されている.また,集中治療室では通信機器の使用制限や面会制限もあり,家族の不安やストレスも懸念される.今回,高度治療室(HCU)に長期滞在となった高位頚髄損傷患者に重度障害者用意思伝達装置(以下意思伝達装置)を導入し,家族との交流を図ることでPICS予防を図ったので報告する.なお,本報告に際して本人・家族に説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】70歳代男性.診断名:非骨傷性頚髄損傷(C5),延髄~頚髄梗塞.頚胸椎椎前間隙膿瘍.現病歴:X-5日後頚部痛,脱力感出現.X日体動困難となり,救急搬送にて当院入院.X+1日PT,OT開始.X+3日酸素化不良にて気管内挿管となり,HCU転棟.X+4日切開排膿術,X+15日気管切開術,X+16日椎間関節膿瘍洗浄術施行.X+31日ST開始.X+46日抑うつにて精神科リエゾン介入.X+60,69,96日心肺停止にて蘇生.X+136日A病院転院.家族背景:妻と2人暮らし.県内に長女,次女,孫.入院前の状況:ADL自立.職歴は元建設業でパソコンの使用経験あり.
【作業療法評価】X+2日経鼻酸素1Lで発話,経口摂取可.四肢完全麻痺で幻視,せん妄あり.X+18日頸部自動運動許可あり.頷きでYES/NOのみ可能.肩甲帯挙上,頭部回旋・前後屈が若干可(MMT3レベル),四肢浮腫著明.傾眠で,昼夜逆転傾向.食事は経管栄養でFIM23点(認知項目9点).問題点:#1意思疎通が困難♯2臥床による廃用進行のリスク♯3精神的ストレス.治療目標:コミュニケーション手段の獲得,車いすで離床,廃用予防とストレス緩和.治療プログラム:①ROMex②筋力増強練習(頸部,肩甲帯)③G-up座位練習④コミュニケーション練習. 
【作業療法経過】X+24日G-up座位練習開始.X+40日「伝の心®」を導入するが文字走査入力のタイミング習得困難.X+53日リフターで車いす乗車.血圧70mmhg台に低下し中止.X+54日G-up座位で「iPad®」をマウススティックで操作練習開始.X+67日心肺停止蘇生後のためG-up練習は中止し,再度「伝の心®」に変更.入力は頭部回旋で「ZONO®」,口輪筋で「PPSスイッチ®」を利用.X+82日孫にメッセージ作成.家族を通じて届いたメッセージに返信され意欲的に取り組まれる.
【結果】日常会話はYES/NO,読唇,文章は「伝の心®」で見守りにて可能.身体機能は著変なく,突発的な発熱,SpO2低下,血圧変動は持続.認知機能は見当識良好で,せん妄や昼夜逆転,抑うつは改善.FIM34点(認知項目20点).
【考察】本症例は約4か月間のHCU滞在,人工呼吸器管理,面会制限,不眠,高齢,循環動態不安定,離床困難,関節運動困難であり極めてPICSに陥るリスクの高い状態であった.今回の介入結果からPICSは概ね予防できたと考えられるが,効果の理由としては意思伝達装置等を患者の状態の変化に合わせながら導入することで,身体機能(心肺機能維持,頸部,顔面の残存筋維持),認知機能(学習と会話による脳賦活),精神機能(家族とのコミュニケーションによる不安軽減,活動のモチベーション)が維持改善されたためと考えられた.今後は更に介入効果を高めるため,通信機器が利用出来るような環境を整え,作業療法士以外の職種がいつでもコミュニケーションツールを活用できるような体制を整えたいと考える.