[PD-1-2] 橈骨遠位端骨折後患者の受傷上肢の日常使用を促進するツール(ADOC-DRF)を使用した事例報告
【はじめに】上肢整形外科疾患患者は術後も活動・参加領域における困難感が遷延化する傾向にあることが報告されている(Kingston G et al. 2010).しかし,前腕・手部における作業療法を調査したシステマティックレビューでは,対象者固有の作業に焦点を当てた報告は少なく,機能障害の改善に焦点が当てられやすい傾向にある(Roll SC et al. 2017).我々は,橈骨遠位端骨折後患者に対して患側上肢の日常使用を促進させるための意思決定支援ツールであるADOC-DRFを開発した.今回,橈骨遠位端骨折術後患者にADOC-DRFを使用したことで日常生活における患側上肢の使用が促され,目標とする作業を再獲得した事例について報告する.なお,発表に関して事例より書面にて同意を得ており,当院倫理委員会の承認も得ている.
【ADOC-DRF】橈骨遠位端骨折後のリハビリテーションプロトコルを「①固定期(術後1~2週)」,「②自動運動開始期(術後2~3週)」,「③仮骨形成期(術後3~6週)」,「④骨癒合期(術後 6週~)」に分類し,各期に上肢を使用する作業のイラスト52種が表示されている.療法士と患者はイラストを閲覧しながら,患者の状態や生活様式に応じて患側上肢の使用について協議し,日常使用を促す.
【事例紹介】左橈骨遠位端関節内骨折(掌側ロッキングプレート固定術施行).80代女性.独居.受傷前はADL,IADLともに自立.
【初回評価】認知機能は日常会話から特に問題認めず.関節可動域(自動):手関節掌屈10°,背屈0°,回内15°,回外0°.NRS(手関節・運動時):2/10,PSEQ:18点, QuickDASH:機能障害29.5,仕事43.6.COPM(遂行度/満足度):左手での洗体(2/2),食器洗い(1/1).
【介入経過】①固定期(術後1~2週):術後翌日に入院作業療法開始.手指と手関節の自動運動を指導し,ADOC-DRFを用いて,「靴下を両手で履く」,「両手での下衣操作」を患側上肢の使用を促した.同日に自宅退院し,以降は外来作業療法(1回40分)に移行した.②自動運動開始期(術後2~3週):手関節と前腕の自動介助運動を自主練習に追加.ADOC-DRFを使用して新たに「洗顔」,「食器洗い」で患側上肢の使用を促した.③仮骨形成期(術後3~6週):筋力増強訓練を追加で導入.ADOC-DRFで患側上肢の使用状況について確認しながら,新たに「ごみ袋を縛る」,「テーブルを拭く」における使用を促した.④骨癒合期(術後 6週~):手関節筋力訓練を追加し,ADOC-DRFでは「鍋・フライパン操作」を提案した.
【最終評価】関節可動域(自動):手関節掌屈55°,背屈60°,回内60°,回外80°,NRS:1/10,PSEQ:56点, QuickDASH:機能障害11.36,仕事0.COPM:左手での洗体(9/10),食器洗い(8/10).事例からはADOC-DRFに関して「イラストがあるから左手を使う場面のイメージができる.時期ごとで難易度が上がっていくから,元の生活に戻っていくことが実感できた」との感想が得られた.
【考察】上肢整形外科領域では,時間的制約や生体力学的なカリキュラムが中心の教育課程の影響から,対象者固有の作業に焦点を当てた介入が展開しにくいとされている(Valdes K et al. 2021).ADOC-DRFでは術後経過週数に応じた患側上肢の使用場面がイラストで表示されることで,外来診療の限られた時間の中でも,生活における患側上肢の使用促進に焦点を当てた介入が容易になったと考えられた.
【ADOC-DRF】橈骨遠位端骨折後のリハビリテーションプロトコルを「①固定期(術後1~2週)」,「②自動運動開始期(術後2~3週)」,「③仮骨形成期(術後3~6週)」,「④骨癒合期(術後 6週~)」に分類し,各期に上肢を使用する作業のイラスト52種が表示されている.療法士と患者はイラストを閲覧しながら,患者の状態や生活様式に応じて患側上肢の使用について協議し,日常使用を促す.
【事例紹介】左橈骨遠位端関節内骨折(掌側ロッキングプレート固定術施行).80代女性.独居.受傷前はADL,IADLともに自立.
【初回評価】認知機能は日常会話から特に問題認めず.関節可動域(自動):手関節掌屈10°,背屈0°,回内15°,回外0°.NRS(手関節・運動時):2/10,PSEQ:18点, QuickDASH:機能障害29.5,仕事43.6.COPM(遂行度/満足度):左手での洗体(2/2),食器洗い(1/1).
【介入経過】①固定期(術後1~2週):術後翌日に入院作業療法開始.手指と手関節の自動運動を指導し,ADOC-DRFを用いて,「靴下を両手で履く」,「両手での下衣操作」を患側上肢の使用を促した.同日に自宅退院し,以降は外来作業療法(1回40分)に移行した.②自動運動開始期(術後2~3週):手関節と前腕の自動介助運動を自主練習に追加.ADOC-DRFを使用して新たに「洗顔」,「食器洗い」で患側上肢の使用を促した.③仮骨形成期(術後3~6週):筋力増強訓練を追加で導入.ADOC-DRFで患側上肢の使用状況について確認しながら,新たに「ごみ袋を縛る」,「テーブルを拭く」における使用を促した.④骨癒合期(術後 6週~):手関節筋力訓練を追加し,ADOC-DRFでは「鍋・フライパン操作」を提案した.
【最終評価】関節可動域(自動):手関節掌屈55°,背屈60°,回内60°,回外80°,NRS:1/10,PSEQ:56点, QuickDASH:機能障害11.36,仕事0.COPM:左手での洗体(9/10),食器洗い(8/10).事例からはADOC-DRFに関して「イラストがあるから左手を使う場面のイメージができる.時期ごとで難易度が上がっていくから,元の生活に戻っていくことが実感できた」との感想が得られた.
【考察】上肢整形外科領域では,時間的制約や生体力学的なカリキュラムが中心の教育課程の影響から,対象者固有の作業に焦点を当てた介入が展開しにくいとされている(Valdes K et al. 2021).ADOC-DRFでは術後経過週数に応じた患側上肢の使用場面がイラストで表示されることで,外来診療の限られた時間の中でも,生活における患側上肢の使用促進に焦点を当てた介入が容易になったと考えられた.