第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-1] ポスター:運動器疾患 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-1-3] 長母指屈筋腱断裂術後患者に対しADOC-Hを使用した介入経験

海老原 佑樹 (石橋総合病院リハビリテーション科)

【緒言】ADOC for Hand(以下ADOC-H)は大野ら1)により実生活における患側上肢の使用を促す事に焦点を当てて開発されたツールである.今回,右長母指屈筋(以下,FPL)腱断裂の術後症例にADOC-Hを用いた作業療法を行った.目標設定の明確化と情報共有を目的にADOC-Hを導入し,リハビリへの意欲の向上と短期的な上肢機能の改善が得られたため考察を加え報告する.
【症例】症例は50代女性,右利きで病前ADLは自立していた.X年Y月Z日より右母指IP関節の屈曲障害が出現し,Z+14日に外来手術にて右FPL腱再建術を施行した.患者の希望としては,「痛みなく動いてくれれば」と抽象的な目標であった.発表に際して患者には書面にて同意を得ており,当院倫理委員会の承認を得ている.
【介入経過】作業療法は外来にて週2回,2単位とし,後療法はプロトコルに準じ実施した.術後5週目での軽作業開始時期に合わせADOC-Hを使用した面接を実施し,合意目標と患側上肢の使用頻度を設定した.術後9日目の初回介入時に装具を作成した.母指ROMは自動IP -34/40(伸展/屈曲),他動IP -34/46であった.術後4週までは減張位でのROM訓練と,腱滑走練習を実施した.術後5週目から装具除去となり,軽作業開始時期に合わせてADOC-Hを使用して面接を実施した.合意目標は①箸を使用して食事ができる(満足度0/5).②書字ができる(0/5).が目標となり,ADLについて目標を明確に表出できた.HAND20は29点であった.ROM訓練,腱滑走訓練では縫合腱の癒着はあるものの,自動運動にてIP -30/44と拡大した.作業療法では箸操作練習,書字練習を追加し, 自主練習の動作指導も実施した.術後9週目にて縫合腱の癒着は残存しているが自動にてIP -22/50,他動にてIP -22/60まで可動域の拡大がみられた.目標の満足度の確認を実施し①箸を使用して食事ができる(4/5).②書字ができる(3/5).と満足度の向上がみられた.HAND20は23点だった.自主練習も定着し,患者からは自主練習に対しての質問や,自発的に次の課題となる目標が聞かれるようになった.2回目のADOC-Hでの面接で抽出された合意目標として③箸で物を切り分ける(2/5).④書字が安定して書ける(3/5).⑤つまんで小袋を切り開ける(3/5).⑥洗濯ばさみが使える(2/5).⑦包丁で皮をむく(2/5).が目標として挙げられた.合意目標に対して許容負荷量内にて筋力増強練習を追加と動作練習を実施し,術後13週目まで練習を継続した.
【結果】ADLは自立,HAND20は12点まで改善した.ROMは自動IP -20/50,他動IP -20/60と初期より改善が見られた. ADOC-Hの最終的な結果は①箸を使用して食事ができる(3/5).②書字ができる(3/5).③箸で物を切り分ける(4/5).④書字が安定して書ける(4/5).⑤つまんで小袋を切り開ける(5/5).⑥洗濯ばさみが使える(5/5).⑦包丁で皮をむく(5/5).と満足度の向上を図れた.ADOC-H使用後から自発的に次の課題となる目標や,自主練習に対しての質問が聞かれるようになり,リハビリに対しての意欲も見られた.
【考察】ADOC-Hは手外科領域においても,生活上で患側上肢の使用を促す効果的なツールである1).今回,右FPL腱断裂術後の症例に対してADOC-Hを使用した.イラストを提示することで上肢の負荷量に応じた動作指導を詳細に行うことができた.また目標設定を明確化,共有化し合意目標を作成したことにより症例自身の主体性を引き出しリハビリに対する意欲の増加,自主練習の定着にも繋がったと考える.
【文献】1)大野勘太ら:上肢整形外科疾患患者に対する作業を基盤とした実践の効果-システマティックレビュー・メタアナリシス-.作業療法,40(2):178-185,2021