第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-10] ポスター:運動器疾患 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-10-4] 糖尿病足病変患者に対する作業療法の標準化への試み

重藤 ひかる1, 今岡 信介1, 園田 悠馬2, 成田 雄一3 (1.大分岡病院リハビリテーション部, 2.神戸大学ウェルビーイング先端研究センター, 3.関東病院リハビリテーション科)

【序論】糖尿病足病変に伴う切断者は依然として多く,その管理と予防に対して,リハビリテーション(作業療法:OT・理学療法:PT)は重要な役割の一端を担っている.足部切断の後療法において,糖尿病患者では視覚障害や手指巧緻運動障害の合併症によって,フットウェアの着脱が困難な場合が多い.また,認知症やうつなどの発症頻度が高く,入院中は基本的ADLだけではなく,調理や家事,趣味活動の制限など手段的ADLも低下しやすい.したがって,作業療法士は,上肢機能,認知機能,心理社会的側面など,様々な評価・介入を行い,個々人にとって意味のある生活行為の維持向上を図ることが重要な役割であると言える.しかしながら,糖尿病足病変患者のOTの実務に携わっている者は非常に少なく,標準化されていないのが現状である.
【目的】糖尿病足病変に対するOTの標準化に向けて,当院へ糖尿病足病の外科的治療を目的に入院しOTを受けた患者の特性とADLの変化を診療録から後方視的に調査すること.
【方法】当院では,退院後の自宅生活を見据えて早期よりOT介入が開始される.FIMなどのADL評価,STEFなどの上肢機能検査,長谷川式(HDS-R)などの簡易認知機能検査,PAID(糖尿病問題領質問票)などの心理社会的側面の評価を行なっている.特に,下肢の切断患者では術後2週間程度のベッド上安静となるため廃用症候群に陥りやすく,ADLの低下や入院が長期化するリスクを考慮し,理学療法士とともに早期離床を試みている.また,糖尿病患者では視覚障害や手指巧緻運動障害など身体的な問題に加え,病識が乏しいなど認知機能の問題から,自己管理が行えず再発することが多い.そのため,ADL動作能力の向上に向けた機能訓練だけでなく,看護師と協働した疾病教育やフットケア指導も行っている.退院前には家屋調査に作業療法士が同行し,より具体的に自宅生活上の障害となり得る環境を把握・調整,地域支援者へ情報共有することで,円滑な退院支援へと繋げている.このように,チーム医療の一員として,作業療法士が入院初期から安静度に合わせて自宅生活・社会復帰に対して積極的な介入を行っている.今回,患者特性について中央値を求め,ノンパラメトリック検定(P<0.05)にて分析した.なお,本研究は所属長・倫理委員長の承認のもと行われた.
【結果】当院では2021年5月から2022年9月の間に糖尿病足病変患者116名に対し,ADL自立度や認知機能の低下又はそれらの低下リスクが高い患者(HDS-R:19点)で,PTに加えOTが処方されていた.PTのみが処方される比較的歩行機能やADL自立度が高い患者(FIM利得:11 [70→97]点)と比較し,OTが処方される重症な患者(FIM利得:14 [60→82]点)で,ADL自立度の利得に同等性がみられた.
【考察】当院で使用している評価の結果から,アウトカムとしても,FIMの反応性が示され,実務および研究での使用が推奨される.糖尿病足病変患者に対する身体機能面の予防的介入または周術期管理だけでなく,認知機能やQOLを加味したADLや心理社会的評価といったOT評価を基に,リハビリテーションチームのゴールを検討するなどの多職種連携診療チームの管理者としての役割も期待されている.本邦において,令和4年度の診療報酬改定で運動器リハビリテーション料の慢性の運動器疾患に糖尿病足病変が追記された.これまでは,切断しなければ,作業療法士が関わることができなかった,あるいは算定することができなかったが,早期の段階でOTが行えるようになったことは非常に意義深い.今後は,切断や再入院に至る前の予防的OTの効果を調査する予定である.