[PD-10-5] 停止腱の組成に基づく上腕三頭筋の解剖学的研究
【背景と目的】
投球動作時は,肘関節に対して大きな外反力がかかる.その際,肘外反に対する制動作用は上腕三頭筋が担うとされる (Kai-Nan An et al., 1981).また,上腕三頭筋停止腱にはときおり損傷が起こるが,その損傷は内側によく起こる (Masahiro Tanabe et al., 2005).一般に,上腕三頭筋は,長頭,外側頭,内側頭の3頭が共同の停止腱を作り,停止腱の線維が骨軸に対して平行に走行して肘頭に停止するとされる.しかし,停止腱がそのような形態であれば,上腕三頭筋の肘外反に対する制動作用や,腱損傷が内側部に好発するということを説明することが難しい.そのため,上腕三頭筋停止腱は,これらの機能や病態について説明しうるような構造をもつのではないかと考えた.そこで,本研究では,上腕三頭筋停止腱の構成とその肘関節における広がりについて明らかにし,停止腱構造とその機能や病態との関連について検討することを目的とした.
【対象と方法】
本研究には,東京医科歯科大学解剖学実習体6体7肘 (男性2体,女性4体,平均83.8歳) を用いた.3肘 (女性2体) で,上腕三頭筋停止腱の構成を肉眼的に解析した.4肘 (男性2体,女性2体) で,上腕三頭筋停止部の水平断 (2肘) と矢状断 (2肘) の切片を作製し,Masson’s Trichrome染色を行うことで,上腕三頭筋停止腱と肘関節周囲構造との関係を組織学的に観察した.
本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行われた (M2018-097).また,「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,日本解剖学会が定めた「解剖体を用いた研究についての考え方と実施に関するガイドライン」に従い実施した.
【結果】
肉眼解剖学的解析では,上腕において,上腕三頭筋停止腱は,外側頭と内側頭の腱からなる薄い浅層部と,長頭,外側頭,内側頭の腱からなる厚い深層部に分けられた.それに続いて,浅層部は,停止部へ向かって骨軸に対して平行に走行し,肘頭へ停止していた.一方,深層部は,浅層部の内側で,遠位に向かって厚く収束し,そこから停止部付近で外側へと広がり,肘頭へ広く停止していた.
組織学的解析において,停止腱の浅層部は,肘頭の後方の狭い領域に線維軟骨を介して付着していた.一方,深層部は,浅層部と同様に線維軟骨を介して,肘頭の広い領域に付着するとともに,その一部は肘関節包の密性結合組織に連続していた.
【考察】
上腕三頭筋の停止腱は,構成筋束,線維配向性,肘頭への付着領域が異なる2つの層からなることが明らかとなった.すなわち,上腕三頭筋停止腱は,2つの停止腱構造をもつと言える.
上腕三頭筋の収縮時には,内側から外側へ広がり肘頭に広く停止する深層部が,肘頭および肘関節包に対し,近位かつ内側方向への張力を与えるのではないかと考えられる.すなわち,上腕三頭筋停止腱の深層部は,肘外反に対する制動作用にとって重要な構造であることが示唆された.また,上腕三頭筋停止腱に機械的応力がかかった際に,内側に限局する厚い深層部には強い負荷が集中しやすい可能性があることから,停止腱の内側に存在する深層部と,内側に好発する停止腱損傷との関連が示唆された.
以上より,上腕三頭筋停止腱の深層構造を理解することにより,上腕三頭筋の肘外反に対する制動作用や,腱損傷が内側部に好発する局在性を合理的に説明しうると考えられた.
投球動作時は,肘関節に対して大きな外反力がかかる.その際,肘外反に対する制動作用は上腕三頭筋が担うとされる (Kai-Nan An et al., 1981).また,上腕三頭筋停止腱にはときおり損傷が起こるが,その損傷は内側によく起こる (Masahiro Tanabe et al., 2005).一般に,上腕三頭筋は,長頭,外側頭,内側頭の3頭が共同の停止腱を作り,停止腱の線維が骨軸に対して平行に走行して肘頭に停止するとされる.しかし,停止腱がそのような形態であれば,上腕三頭筋の肘外反に対する制動作用や,腱損傷が内側部に好発するということを説明することが難しい.そのため,上腕三頭筋停止腱は,これらの機能や病態について説明しうるような構造をもつのではないかと考えた.そこで,本研究では,上腕三頭筋停止腱の構成とその肘関節における広がりについて明らかにし,停止腱構造とその機能や病態との関連について検討することを目的とした.
【対象と方法】
本研究には,東京医科歯科大学解剖学実習体6体7肘 (男性2体,女性4体,平均83.8歳) を用いた.3肘 (女性2体) で,上腕三頭筋停止腱の構成を肉眼的に解析した.4肘 (男性2体,女性2体) で,上腕三頭筋停止部の水平断 (2肘) と矢状断 (2肘) の切片を作製し,Masson’s Trichrome染色を行うことで,上腕三頭筋停止腱と肘関節周囲構造との関係を組織学的に観察した.
本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行われた (M2018-097).また,「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,日本解剖学会が定めた「解剖体を用いた研究についての考え方と実施に関するガイドライン」に従い実施した.
【結果】
肉眼解剖学的解析では,上腕において,上腕三頭筋停止腱は,外側頭と内側頭の腱からなる薄い浅層部と,長頭,外側頭,内側頭の腱からなる厚い深層部に分けられた.それに続いて,浅層部は,停止部へ向かって骨軸に対して平行に走行し,肘頭へ停止していた.一方,深層部は,浅層部の内側で,遠位に向かって厚く収束し,そこから停止部付近で外側へと広がり,肘頭へ広く停止していた.
組織学的解析において,停止腱の浅層部は,肘頭の後方の狭い領域に線維軟骨を介して付着していた.一方,深層部は,浅層部と同様に線維軟骨を介して,肘頭の広い領域に付着するとともに,その一部は肘関節包の密性結合組織に連続していた.
【考察】
上腕三頭筋の停止腱は,構成筋束,線維配向性,肘頭への付着領域が異なる2つの層からなることが明らかとなった.すなわち,上腕三頭筋停止腱は,2つの停止腱構造をもつと言える.
上腕三頭筋の収縮時には,内側から外側へ広がり肘頭に広く停止する深層部が,肘頭および肘関節包に対し,近位かつ内側方向への張力を与えるのではないかと考えられる.すなわち,上腕三頭筋停止腱の深層部は,肘外反に対する制動作用にとって重要な構造であることが示唆された.また,上腕三頭筋停止腱に機械的応力がかかった際に,内側に限局する厚い深層部には強い負荷が集中しやすい可能性があることから,停止腱の内側に存在する深層部と,内側に好発する停止腱損傷との関連が示唆された.
以上より,上腕三頭筋停止腱の深層構造を理解することにより,上腕三頭筋の肘外反に対する制動作用や,腱損傷が内側部に好発する局在性を合理的に説明しうると考えられた.