第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-10] ポスター:運動器疾患 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-10-6] 手根管症候群における母指回内角度の増加が手の機能的状態に及ぼす影響

山家 恭平1, 鶴代 奈月1, 日比野 直仁2, 横尾 由紀2, 和田 一馬2 (1.地方独立行政法人 徳島県鳴門病院リハビリテーション技術科, 2.地方独立行政法人 徳島県鳴門病院手の外科センター)

【序論】
一般的に,手根管症候群 (CTS) における手の機能的状態の患者立脚型評価として,手根管症候群質問票機能的状態スケール (CTSI-FS) が広く用いられており,手根管開放術 (OCTR) によって改善すると報告されている.一方,我々の研究では,CTS患者の術前は母指回内角度が低下傾向にあり,CTSI-FSとの間に負の相関関係があることを示唆したが,術後の経時的な関連性については明らかにされていない.OCTR後の母指回内角度およびCTSI-FSの経時的な変化や関連性を調査することは,手の機能的状態に角度変化が及ぼす影響を明らかにし,対立機能強化の重要性を強める可能性がある.そこで本研究では,OCTRを施行されたCTS患者における母指回内角度変化が,CTSI-FSに及ぼす影響について検討した.
【対象・方法】
2021年2月から2023年2月までにCTSと診断され,OCTRを施行された116例のうち,術前の母指回内角度において,測定誤差を超える3度以上の左右差が認められた25例を対象とした.全例にOCTRが施行され,術後翌日より,前腕回内外中間位での患側母指掌側外転および対立の自動介助運動を指導した.測定には伊藤超短波社製のデジタルゴニオメータ (easy angle®) および日本手外科学会版CTSI (CTSI-JSSH) を使用し,術前,術後3ヶ月,および6ヶ月の患側母指回内角度およびCTSI-FSを測定した.なお,本研究における母指回内角度測定法は,高い測定信頼性 (ICC : 0.92) を得ている.統計解析には,SPSS25.0Jを使用し,それぞれの術前,術後3ヶ月,および6ヶ月の差についてFriedman検定を用いており,各期の母指回内角度およびCTSI-FSとの関連については,Spearmanの順位相関係数を用いた.すべての検定における有意水準は5%未満とした.なお,本研究は当院倫理審査委員会 (1331) の承諾を得ている.
【結果】
術前,術後3ヶ月,および6ヶ月の患側母指回内角度およびCTSI-FSの平均は,それぞれ4.1±5.5度,8.0±6.3度,10.8±7.1度であり,2.5±0.8,1.6±0.7,1.2±0.6であった.また,それぞれの各期との間には有意差が認められ (p < 0.01),各期の母指回内角度とCTSI-FSとの間に有意な相関関係が認められた (r = -0.393 : p < 0.01).
【考察】
術前と比較して術後各期の母指回内角度が増加した要因として,OCTRの正中神経の除圧および血行動態の改善による神経回復の促進効果,加えて除重力位での短母指外転筋および母指対立筋への促通により,母指球筋筋力が改善したためと考える.また,術前と比較して術後各期のCTSI-FSは低下し,術前から術後各期の母指回内角度およびCTSI-FSとの間に負の相関関係が認められた理由の一つとして,術前は母指回内角度が低下していたことで,母指および他指との対立動作が困難になったと考えられる.さらに,術後の角度増加によって対立動作が円滑に行えるようになり,日常生活における手の使用感が改善したと考える.そのため,術後の手の機能的状態を改善させるためには,母指回内角度を増加させると良い可能性が示唆された.よって,今後は,術後の母指回内角度が十分に増加しない例に対して,神経回復または母指球筋出力を促通する手法や作業療法を行うことが重要と考えられた.