[PD-10-8] 上腕骨折術後,生活場面での上肢使用が可能となった一症例
【序論】
上腕骨骨幹部骨折は高齢者の代表的な骨折の一つであり,転倒などの大きな外力で発生する.転移の大きい場合,固定性の得られる手術療法を選択し,早期からの運動療法が重要と言われている.しかし,様々な要因から術後に積極的な運動療法を実施できないことで,十分な機能改善を得られない可能性もある.また,患肢の不必要な不動により疼痛悪化や慢性疼痛へと移行する痛みの負の連鎖が報告されている.これらは,機能的な改善を阻害し,生活内での患肢不使用に陥り,更なる機能低下といった悪循環へ繋がることが危惧される.
【目的】
今回,転倒受傷による上腕骨折後,長期間に渡り上肢使用機会がなく,自宅での生活を送られていた症例に対するAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand (以下,ADOC-H) を用いた目標設定,上肢機能訓練,上肢使用方法指導の効果検証を目的とする.
【方法】
対象は,転倒受傷にて右上腕骨骨幹部骨折後,観血的手術を施行した80歳代女性.術後5ヶ月を経過し,当院へ入院.右上肢は常に三角巾を使用し,生活動作は全て左上肢を使用.利き手である右手の不使用に対しては「どうせもう右手は使えないから,できないから」と悲観的な発言が聞かれた.
上肢機能としてはVisual Analogue Scale (以下,VAS) で肩関節屈曲時:35mm,肘関節伸展時:43mmの運動時痛,肩関節屈曲 115°,肘関節伸展 -25°の関節可動域制限を認めた.手関節および手指に制限なく,掌握動作可能にも関わらず,生活内での右上肢使用場面は殆どなく,Motor Activity Log (以下,MAL)はAmount of Use (以下,AOU) 0.57点,Quality of Movement (以下,QOM) 0.78点.生活目標もなく,リハビリテーションに限らず,入院生活や今後の見通しについても消極的かつ受動的であった.作業療法介入は,右上肢の使用目標を本人が理解・意識できるようにADOG-H を用いて目標設定・課題選択を行った.週5回,上肢機能練習,段階的に難易度を調整した課題の提供 (課題指向型練習) を入院リハビリテーション提供した42日間実施.経過に合わせ,目標の再確認,再設定や課題の見直しを必要応じて適宜行った.
人を対象とする医学的研究に関する倫理指針を遵守し,対象者へ研究の趣旨,参加の任意性と中断の自由と不利益の回避,個人情報の保護,結果の公表について書面で説明し,署名にて同意を得た.
【結果】
介入前と比較して介入後の機能評価 (介入前→介入後で記載) は肩関節屈曲時VAS:35mm→10mm,肘関節伸展時VAS:43mm→15mmと変化した.関節可動域の著明な変化は認めず,MAL (AOU 0.57点→3.71点) (QOM 0.78点→3.92点) であった.三角巾は不要となり,生活場面での右上肢使用を認めた.介入後は掃除や洗濯,家事活動の模擬動作練習・実践にも積極的に取り組まれ「できることが増えた.退院後は家族に料理を振る舞いたい」といった内省報告が聞かれた.
【考察】
上腕骨折術後に,患肢不使用に陥っていた症例に対し,ADOG-Hを用いた目標設定,それに伴う課題提供を行ったことで,不動状態の患肢が活動状態へと変化し,疼痛軽減および患肢の使用に繋がり,自身の役割を取り戻すことができたと考える.ADOG-Hは実生活の中での上肢使用場面や工程のイラストが掲載されている為,症例自身が視覚情報から目標などがイメージしやすかったと考える.また,自身の目標に沿った課題指向型練習を通して,成功体験が自信へと繋がり,患肢を積極的に使用するよう行動・意識を変化させることができたと考える.
上腕骨骨幹部骨折は高齢者の代表的な骨折の一つであり,転倒などの大きな外力で発生する.転移の大きい場合,固定性の得られる手術療法を選択し,早期からの運動療法が重要と言われている.しかし,様々な要因から術後に積極的な運動療法を実施できないことで,十分な機能改善を得られない可能性もある.また,患肢の不必要な不動により疼痛悪化や慢性疼痛へと移行する痛みの負の連鎖が報告されている.これらは,機能的な改善を阻害し,生活内での患肢不使用に陥り,更なる機能低下といった悪循環へ繋がることが危惧される.
【目的】
今回,転倒受傷による上腕骨折後,長期間に渡り上肢使用機会がなく,自宅での生活を送られていた症例に対するAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand (以下,ADOC-H) を用いた目標設定,上肢機能訓練,上肢使用方法指導の効果検証を目的とする.
【方法】
対象は,転倒受傷にて右上腕骨骨幹部骨折後,観血的手術を施行した80歳代女性.術後5ヶ月を経過し,当院へ入院.右上肢は常に三角巾を使用し,生活動作は全て左上肢を使用.利き手である右手の不使用に対しては「どうせもう右手は使えないから,できないから」と悲観的な発言が聞かれた.
上肢機能としてはVisual Analogue Scale (以下,VAS) で肩関節屈曲時:35mm,肘関節伸展時:43mmの運動時痛,肩関節屈曲 115°,肘関節伸展 -25°の関節可動域制限を認めた.手関節および手指に制限なく,掌握動作可能にも関わらず,生活内での右上肢使用場面は殆どなく,Motor Activity Log (以下,MAL)はAmount of Use (以下,AOU) 0.57点,Quality of Movement (以下,QOM) 0.78点.生活目標もなく,リハビリテーションに限らず,入院生活や今後の見通しについても消極的かつ受動的であった.作業療法介入は,右上肢の使用目標を本人が理解・意識できるようにADOG-H を用いて目標設定・課題選択を行った.週5回,上肢機能練習,段階的に難易度を調整した課題の提供 (課題指向型練習) を入院リハビリテーション提供した42日間実施.経過に合わせ,目標の再確認,再設定や課題の見直しを必要応じて適宜行った.
人を対象とする医学的研究に関する倫理指針を遵守し,対象者へ研究の趣旨,参加の任意性と中断の自由と不利益の回避,個人情報の保護,結果の公表について書面で説明し,署名にて同意を得た.
【結果】
介入前と比較して介入後の機能評価 (介入前→介入後で記載) は肩関節屈曲時VAS:35mm→10mm,肘関節伸展時VAS:43mm→15mmと変化した.関節可動域の著明な変化は認めず,MAL (AOU 0.57点→3.71点) (QOM 0.78点→3.92点) であった.三角巾は不要となり,生活場面での右上肢使用を認めた.介入後は掃除や洗濯,家事活動の模擬動作練習・実践にも積極的に取り組まれ「できることが増えた.退院後は家族に料理を振る舞いたい」といった内省報告が聞かれた.
【考察】
上腕骨折術後に,患肢不使用に陥っていた症例に対し,ADOG-Hを用いた目標設定,それに伴う課題提供を行ったことで,不動状態の患肢が活動状態へと変化し,疼痛軽減および患肢の使用に繋がり,自身の役割を取り戻すことができたと考える.ADOG-Hは実生活の中での上肢使用場面や工程のイラストが掲載されている為,症例自身が視覚情報から目標などがイメージしやすかったと考える.また,自身の目標に沿った課題指向型練習を通して,成功体験が自信へと繋がり,患肢を積極的に使用するよう行動・意識を変化させることができたと考える.