第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-1] 早期からの短期目標達成により不安や抑うつの改善を認めた下腿骨骨折患者の一事例

平山 裕太, 山中 玄, 木村 花恵 (医療法人徳洲会 千葉西総合病院)

【序論】下腿骨骨折は交通外傷等の突発的な出来事によって生じるケースが多い.その為,入院時に心理状態が不安定になりやすいと考えられている(吉本千鶴2000).しかし,下腿骨骨折後の心理面への介入方法は未確立である.今回,自転車事故により,左脛骨遠位骨幹部骨折,左腓骨遠位端開放骨折を受傷後,不安・抑うつを呈した患者に対し,創外固定期間からカナダ作業遂行測定(以下COPM)に基づき,目標達成に向けて介入を行ったところ,不安・抑うつの改善,積極的なリハビリテーションへの参加が可能となった.本報告では下腿骨骨折後に心理的不安定性を呈した患者に対し,好影響を及ぼす要素を考察する.本報告はご本人の同意を得ている.
【症例紹介】A氏,50代女性,主婦.夫,息子とマンションに同居.仕事は医療職で介護施設に勤務.復職希望あり.性格は穏やかで社交的.趣味は友人と旅行.X年Y月Z日,自転車にて転倒受傷.同日,デブリードマン,創外固定施行.Z+1日,左下肢免荷指示の下,理学療法,作業療法(以下OT)開始.Z+10日,観血的整復固定術施行.術後1日目より,免荷歩行許可ありリハビリテーション再開.
【初期評価】初回,COPM「1復職」重要度10,遂行度1,満足1.「2歩行」重要度10,遂行度1,満足度1.「3積極的なリハビリの実施」重要度10,遂行度1,満足度1.本人より「仕事は無理ですかね」,「これから不安」,「痛みは続きますか」等,不安な発言が聞かれた.疼痛は安静時痛NRS5/10,運動時痛7/10.不安・抑うつは,Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)にて不安8/21,抑うつ8/21.身体機能として,左下肢を除き,筋力はMMT5.車椅子乗車は中等度介助.ADLでは,FIM69点(運動34点,認知35点).長期目標を復職,短期目標を病棟内ADL自立とした.
【経過】初回から,今後への不安感を認めた為,傾聴し支持的な関わりを行った.また,環境調整やADL練習,創外固定の管理指導,上肢エルゴメーターを実施.介入中は,肯定的なフィードバックを欠かさず行った.Z+10日,観血的整復固定術施行.術後2日目より,OT再開.家屋評価,ADL練習,家事動作練習や環境調整の指導を中心に実施.成功体験の増加,継続した肯定的なフィードバックを行った.Z+20日,病棟内ADLが自立し,短期目標を段階的に達成.自発的に歩行する場面も増加した.Z+25日松葉杖にて自宅退院.
【結果】退院時,COPM「1復職」遂行度1,満足度5.「2歩行」遂行度5,満足度8.「3積極的なリハビリの実施」遂行度7,満足度10.本人より「家に帰れて嬉しい」,「少し不安だけど生活はできそう」等,前向きな発言が聞かれた.疼痛は安静時痛NRS1/10,運動時痛4/10.HADSは不安1/21,抑うつ0/21で不安・抑うつは改善.身体機能では,左膝関節,足関節に関節可動域制限あり.筋力はMMT左下肢2から3,他三肢MMT5.ADLでは,FIM123点(運動88点,認知35点).松葉杖にて自宅退院となった.
【考察】脛骨骨幹部骨折におけるOTの役割として,ADL等の動作確認,急性期からの疼痛管理と共に心理的要因への支援が重要視される(原竜生2022).本症例は下腿骨開放骨折後,早期からの目標の共有,着実な短期目標の達成が,不安や抑うつの改善,積極的なリハビリテーション参加の一因になったと考える.下腿骨骨折後に心理的不安定性を呈した患者に対し,早期より本人の希望する方向で目標を共有する事,短期目標の着実な達成が心理面へ好影響を及ぼす可能性が示唆された.