第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-5] 橈骨遠位端骨折後の変形癒合に対する手術後の段階的な装具の使用により,手指の関節可動域が改善した症例

青木 梨紗1, 松木 千津子1, 村田 海1, 石川 篤1, 安保 雅博2 (1.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

【はじめに】今回,右橈骨遠位端骨折後の変形癒合に対し,手関節固定術を行った症例に対して介入した.症例は手関節を固定したため,生活動作の獲得には手指の関節拘縮を予防する必要があった.しかし,生活での他者への依存度の高さから,自主練習は定着しなかった.手指の関節拘縮リスクは高く,作業療法では,装具を作成して段階的に使用した.また,介入頻度を増やし,看護師との連携を行い,自主練習時間を確保した.その結果,術後の手指の関節可動域(以下ROM)が改善したため以下に報告する.
【倫理的配慮】本発表の目的および倫理的配慮について説明し,書面にて同意を得た.
【症例】症例は70歳代男性で右利き,職業は外科医師であった.診断名は右橈骨遠位端骨折後偽関節であった.X年Y-4月,階段につまずき受傷するが,受診せず変形癒合した.Y月Z日,疼痛の増悪に伴い手術目的で当院に入院し,術前より作業療法介入を開始して,Z+17日に手術が施行された.手術は手掌側から骨折部周囲を剥離,手背側より第3中手骨,移植骨と橈骨骨幹部をプレートにて架橋し,創外固定器で固定した.
【初期評価】患肢手指は浮腫に加え,熱感,発赤,疼痛などの炎症症状を認めた.骨折部を4ヶ月間放置したことによる手内筋の萎縮や廃用性浮腫,術後の手掌側創部での手指屈筋腱と手背側創部での総指伸筋腱の滑走障害を認めた.手指のROMはTAM母指20°,示指52°,中指54°,環指88°,小指70°であった.症例の利点は,作業療法士の介入下での訓練には意欲的で,看護師との関係性が良好なことであった.しかし,上肢機能低下への自覚が少なく,生活での他者への依存度が高さから,自主練習は定着しなかった.
【経過】術直後はシーネ固定外での手指の自他動運動を実施した.自主練習が定着しないことで,患肢の浮腫の改善は乏しく,手指の二次的関節拘縮が進行した.そこで,介入頻度を1日1回から2回に増やし,手指の自動運動を実施した.術後4週目には総指伸筋腱の遠位滑走拡大を目的に静的装具を作成し,総指伸筋腱の持続的な伸張を促した.術後5週目には手指屈筋腱の近位滑走拡大を目的にダイナミックスプリントを作成した.看護師には装具の装着や練習の指導を行い,病室での自主練習時間を確保した.
【最終評価】手指のROMはTAM母指40°,示指94°,中指116°,環指126°,小指120°と手指のROMが改善し,トイレットペーパーをちぎるという生活動作を獲得した.自動運動による効果が具体的な生活動作につながったことで,本人の患肢への認識も変化した.
【考察】術後の手指のROMが改善した要因としては,段階的な装具の使用による手指の自動運動が実施できたことが挙げられる.症例は骨折部を4ヶ月間放置し,変形癒合した.術前より手内筋の萎縮や廃用性浮腫があり,侵襲の激しい手術による手掌,手背側創部での腱滑走障害を認めた.また,自主練習は定着せず,浮腫の改善が乏しいことで手指の二次的関節拘縮が進行した.腱滑走障害による腱性拘縮に対しての訓練は,遠位方向は持続的に伸張し,近位方向は自動運動で行うと述べている(山田,2022).静的装具にて総指伸筋腱の遠位滑走拡大を促し,手指屈筋腱の近位滑走拡大と手内筋の筋力向上を目的にダイナミックスプリントを作成した.浮腫は関節拘縮や腱癒着の原因となり,自動運動が浮腫の軽減に有用だと述べられている(射場,2016).創部下での癒着の進行を予防するために装具を段階的に使用し,手指の自動運動を実施したことで手指のROMが改善した.そして,介入頻度の増加や看護師との連携により,十分な自主練習時間を確保できたことも手指のROM改善と生活動作の獲得に至ったと考える.