第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-8] 橈骨遠位端骨折術後における自主練習指導において価値ある作業の成功体験が有効であった一例

山木 花音1, 須藤 誠1, 飯塚 裕介1, 田村 由馬1, 長田 伝重2 (1.獨協医科大学日光医療センターリハビリテーション部, 2.獨協医科大学日光医療センター整形外科)

【はじめに】橈骨遠位端骨折は他の骨折に比べて複合性局所疼痛症候群(CRPS)の発生率が高いことが報告されている.CPRSの発生要因には,受傷様式,創傷の状態,ギプスなどの固定の程度と期間,心理的状態,治療意欲,理解度,疾病利得など複数の因子が関与する.(Atkins RM et al,1990).本事例は術後疼痛に伴い不安が強く,CRPS臨床診断項目の4/5が該当し,心理的状態に応じて自主練習の指導を工夫したものの難渋した.しかし,本人にとって価値ある作業に取り組んだことで劇的に改善を認めたので,報告する.なお,本報告において本人に同意は得られている.
【事例紹介】 70歳女性,右利き,右橈骨遠位端関節内骨折(AO分類:C3).脚立から転落受傷し.受傷当日に他院にてギプスシーネ固定され,翌日に当院受診した.受傷から11日後に掌側ロッキングプレート固定を施行した.主治医より術当日から500g以下の把持,自他動運動が許可された.自宅では主婦として家事全般の役割を担っていた.受傷前からの趣味として水彩画を描いており,仲間とサークル活動を行っていた.
【経過】術翌日の初期評価時は右手関節掌屈20°背屈50°回内20°回外25°,指尖手掌距離(TPD)30mmであった.浮腫,熱感,他動運動時の疼痛(NRS5/10)がみられた.入院中にはOTによるリラクゼーション,浮腫管理,自主トレーニング指導を主に行った.
 術後1週間時は,掌屈55°背屈50°回内70°回外55°,TPD 0mmと改善がみられた.しかし,退院から5日後に掌屈20°背屈15°回内35°回外30°TPD 30mmと可動域悪化.安静時にも持続する疼痛,知覚過敏,浮腫,手掌の発汗がみられた.また,「包丁を使ってみた」「まだ骨がついてないから動かせない」と発言あり,自宅での禁止事項の順守,自主練習ができていない様子があった.何度も入念に指導したが,自主練習は行えていない一方で,家事等の許可範囲を超える手の使用は続けていた.
 術後1か月,主婦の役割が遂行できず「何もできない.骨折しているのよ」との発言が聞かれ,落ち込みがみられた.OTは書面等を用いて手の使用範囲の適切な理解を促し,外来通院を頻回に(週に2~3回)したが横ばいの状態であった.
 術後2か月にて骨癒合し禁止事項は解除された.所属サークル主催の展覧会が決定し,当初は乗り気ではなさそうであったが,絵を描く動作を実際に確認し色鉛筆の使用が可能であったため,「展覧会に絵を出品する」という目標共有を行った.更に,「思い通りの絵を描くには手関節の可動域が必要」という認識が得られ,絵を描く前の準備運動としてこれまで指導してきた自主練習の習慣化が可能になった.
 術後3か月で関節可動域は掌屈60°背屈70°回内90°回外80°と改善し,浮腫,熱感消失した.目標であった展覧会に絵を出品することができた.自宅では受傷前からの役割である家事を全て行うことが可能になり,外来リハを終了した.
【考察】本事例は「骨折は動かさないもの」,「良い妻は家事を全て行うべき」という固定概念を持ち,自主トレーニングは行わず,禁止事項を破ってしまっていた.早期対応として固定概念による誤認識の是正に難渋し,紙面や模倣での指導だけでは悪循環から抜け出すに至らなかった.しかし,本人にとって価値のある作業である描画を通して「手の運動の必要性」が理解され,手の運動が習慣化されたことで,劇的に改善を認めた.今後は,術後早期に齟齬が生じないよう事例ごとに指導方法の工夫を検討していきたい.