[PD-12-3] 運動恐怖により日常生活で手の使用頻度の低下がみられた右橈尺骨遠位端骨折術後患者に対するADOC-Hを用いた段階的作業療法介入
【緒言】近年,上肢の整形外科疾患患者に対する,作業を基盤とした実践(occupation-based intervention:OBI)が注目されている(Weinstock-Zlotnick, 2018).実生活での患肢の使用を促し,OBIを実践するためのツールとして,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)が使用されている(Ohno, 2021).今回,運動恐怖により日常生活における患肢の使用に難渋した事例を経験した.我々は,本事例に対しADOC-Hを使用することで段階的な目標設定を行い,患肢の使用行動の変容を図った.結果,運動恐怖の軽減や日常生活における患肢の使用頻度の向上,事例にとって重要度の高い目標達成へと繋げることができた.以下に考察を加え報告する.尚,本報告に際し本人より同意を得ており,当院倫理委員会の承認を得ている.
【対象】70歳代女性,右利き,夫と2人暮らし,家事はすべて行っていた.Y月Z日に自宅内の階段から転落し受傷.同日当院を受診し,右橈尺骨遠位端骨折(AO分類C3, Biyani分類type3)の診断となり,創外固定による一時的な手術が施行.Z+8日目に橈骨遠位端骨折に対し,掌側ロッキングプレート術を施行し,尺骨遠位端骨折は保存加療となった.翌日より作業療法(OT)が開始となる.Z+25日目で自宅退院となり,Z+27日目より外来作業療法(外来OT)を週2回の頻度で開始した.
【評価】外来OT開始時,関節可動域は,手関節掌屈35°,背屈40°,前腕回内60°,回外35°であった.安静時痛は,Visual Analog Scale(VAS)で0/10,運動時痛は5/10であった.痛みへの恐怖回避思考を評価するTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)は,50/68点と高値を示し,運動恐怖が強い状態であった.DASHは71.5/100点,Hand20は91.5/100点と高値を示し,日常生活での満足度は低かった.カナダ作業遂行測定(COPM)では,「両手で洗顔ができる」(遂行度1/10点,満足度1/10点),「お箸でご飯が食べられるようになる」(遂行度1/10点,満足度1/10点)が目標として挙げられた.
【介入内容】機能的訓練および課題指向型訓練に加えADOC-Hを用い,生活場面を想定した作業活動を作業療法士と選択した.選択した作業活動においては,共有・合意形成を図り,難易度を段階的に設定し患肢の生活場面への参加促進を図った.
【結果】最終評価時,関節可動域は,手関節掌屈60°,背屈60°,前腕回内80°,回外80°に改善した.安静時・運動時痛は認めなかった.TSKは17/68点と低値を示し運動恐怖軽減に伴い,DASHは0.86/100点,Hand20は1/100点と日常生活での患肢の使用頻度増加に繋がった.COPMにおいては,「両手で洗顔ができる」(遂行度10/10点,満足度10/10点),「お箸でご飯が食べられるようになる」(遂行度10/10点,満足度10/10点)と点数の向上を認め,事例が定めた目標達成へと至った.また,ADOC-Hでの作業活動選択時において,事例自ら主体的に作業選択を実施できるようになり,Z+120日で外来OT終了となった.
【考察】CRPS患者を対象とした報告では,段階的に患肢使用を促すことによって,痛みや恐怖心が軽減し,日常生活動作の改善に繋がったとされている(Jong, 2005).本事例においても同様の傾向が示され,ADOC-Hを用い,段階的かつ適切な作業難易度を設定することは,運動恐怖を軽減させ,日常生活での患肢の使用行動の変容に繋がる可能性が考えられた.
【対象】70歳代女性,右利き,夫と2人暮らし,家事はすべて行っていた.Y月Z日に自宅内の階段から転落し受傷.同日当院を受診し,右橈尺骨遠位端骨折(AO分類C3, Biyani分類type3)の診断となり,創外固定による一時的な手術が施行.Z+8日目に橈骨遠位端骨折に対し,掌側ロッキングプレート術を施行し,尺骨遠位端骨折は保存加療となった.翌日より作業療法(OT)が開始となる.Z+25日目で自宅退院となり,Z+27日目より外来作業療法(外来OT)を週2回の頻度で開始した.
【評価】外来OT開始時,関節可動域は,手関節掌屈35°,背屈40°,前腕回内60°,回外35°であった.安静時痛は,Visual Analog Scale(VAS)で0/10,運動時痛は5/10であった.痛みへの恐怖回避思考を評価するTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)は,50/68点と高値を示し,運動恐怖が強い状態であった.DASHは71.5/100点,Hand20は91.5/100点と高値を示し,日常生活での満足度は低かった.カナダ作業遂行測定(COPM)では,「両手で洗顔ができる」(遂行度1/10点,満足度1/10点),「お箸でご飯が食べられるようになる」(遂行度1/10点,満足度1/10点)が目標として挙げられた.
【介入内容】機能的訓練および課題指向型訓練に加えADOC-Hを用い,生活場面を想定した作業活動を作業療法士と選択した.選択した作業活動においては,共有・合意形成を図り,難易度を段階的に設定し患肢の生活場面への参加促進を図った.
【結果】最終評価時,関節可動域は,手関節掌屈60°,背屈60°,前腕回内80°,回外80°に改善した.安静時・運動時痛は認めなかった.TSKは17/68点と低値を示し運動恐怖軽減に伴い,DASHは0.86/100点,Hand20は1/100点と日常生活での患肢の使用頻度増加に繋がった.COPMにおいては,「両手で洗顔ができる」(遂行度10/10点,満足度10/10点),「お箸でご飯が食べられるようになる」(遂行度10/10点,満足度10/10点)と点数の向上を認め,事例が定めた目標達成へと至った.また,ADOC-Hでの作業活動選択時において,事例自ら主体的に作業選択を実施できるようになり,Z+120日で外来OT終了となった.
【考察】CRPS患者を対象とした報告では,段階的に患肢使用を促すことによって,痛みや恐怖心が軽減し,日常生活動作の改善に繋がったとされている(Jong, 2005).本事例においても同様の傾向が示され,ADOC-Hを用い,段階的かつ適切な作業難易度を設定することは,運動恐怖を軽減させ,日常生活での患肢の使用行動の変容に繋がる可能性が考えられた.