第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-12] ポスター:運動器疾患 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-12-8] 頚髄損傷患者に対して自助具を工夫したことで食事自立に至った事例

鈴木 雄大, 本間 健太 (総合リハビリテーションセンターみどり病院リハビリテーション科)

【はじめに】今回,C5レベルの不全四肢麻痺を呈した症例に対し,ポータブルスプリングバランサー(PSB)や自助具からの離脱,さらにバネ箸での食事動作まで獲得することができた.その経過を報告する.尚,本報告に際して本人,家族に説明し同意を得た.
事例紹介50歳代男性.診断名:C4非骨傷性頸髄損傷(不全麻痺).Y月Z日に転倒し,A病院に入院.同日に緊急搬送され,Z+12日C2椎弓除去術とC3~5椎弓形成術を施行.Z+32日にリハビリ目的で当院へ入院.
【作業療法評価:Z+32~37日】徒手筋力テスト(MMT,L/R):三角筋前部線維・上腕三頭筋・浅指屈筋2/2,三角筋中部線維3/4,上腕二頭筋3/3,橈側手根伸筋・橈側手根屈筋・総指伸筋・小指外転筋1/2.握力は左右共に測定不能.触覚:上腕内側~尺側手指で軽度鈍麻.腹部や下肢は左右差なし.Zancolliの分類:C5A.ASIA機能尺度:C.基本動作:全介助.ADL:FIMは運動項目13点/認知項目35点,食事:ベッド上全介助.耐久性:リハビリ以外はベッド臥床.チルトリクライニング車椅子の乗車時間は最大15分.
【経過】Z+33~51日:車椅子に乗車し,食事動作練習を開始した.PSBの使用に加え,手関節の固定や前腕回内外の動作を補う為にリストサポーターと先曲がりスプーンを使用した.また,手指の集団屈曲が僅かに可能であり,三指にて太柄グリップを把持し,その構えをバンドで固定した.その際,食事中の食器位置の調整に介助を要し,自力摂取は8割であった.その後,食器やスプーンの角度の調整を繰り返し,訓練場面ではセッティングのみ介助で全量の自力摂取が可能となった為,病棟にセッティング方法を申し送った.
Z+52~65日:病棟において複数の自助具のセッティングが困難な為,再び全介助となっていた.自力摂取できないもどかしさを感じ,本人からは「自分のペースで食べたい」と訴えがあった.そこで,先曲りスプーンと一体化させた万能カフのみへと変更し,セッティングの簡略化を図った.また,前腕伸筋群に対して機能的電気治療を併用したことで手関節背屈筋群の向上を認め,同時期にリストサポーターから離脱できた.そして,病棟へセッティングを申し送った事で自力摂取が可能となり,3食自立となった.
Z+66~98日:自主トレも可能となり,肩関節周囲の筋力向上を認め,PSBから離脱できた.その後,前腕回内外動作が可能となり,万能カフも不要となり,本人から箸での食事練習の希望が聞かれた.バネ箸を使用したが,食べ物を掴む際に母指で箸の固定が困難な為,母指固定用リングを装着した.リング装着時の自力摂取は最初の4~5口のみであったが,箸操作練習や手指筋力向上練習を行い,一週間後には全量の自力摂取が可能となった.
【結果:Z+99~103日】MMT(L/R):三角筋・上腕二頭筋4/5,上腕三頭筋3/4,橈側手根伸筋2/3,橈側手根屈筋3/3,総指伸筋1/2,浅指屈筋3/3,小指外転筋2/2,握力は右8.0㎏・左は測定不能.Zancolliの分類:C6BⅢ.ASIA機能尺度:D.基本動作:自立.ADL:FIMは運動項目41点.耐久性:リハビリ以外でも日中は車椅子上で生活.
【考察】本症例は手指の随意性を認めていた為,実際のADL場面の機能改善を期待して,手指の機能を活かした自助具のセッティングを検討したが,複雑であり,病棟スタッフでは再現が困難であった.その為,手指機能の改善にこだわらず,再現性が高いことや食事自立に向けたアプローチが優先であると考え,簡易的なセッティングに変更したところ,病棟でも準備が可能となった.その結果,自力摂取という能動的体験や食事が自立できた成功体験によって,意欲や自信が向上し,機能回復へ繋がったと考える.